ロシア正教会がウクライナ侵攻を"祝福"する理由 「プーチン政権とのつながり」を池上彰が解説

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東方正教会は、各国に存在する正教会が対等であるという建前ですが、正教発祥の地であるコンスタンティノープルの総主教が高い権威を保持していました。しかし、東ローマ帝国が滅亡し、コンスタンティノープルがイスラムの土地イスタンブールになってしまうと、お膝元の信者数は激減。名目上の地位だけは高いという状態でした。そこでモスクワの総主教としては、スラブ世界に点在する正教会全体を自己の管轄下に置こうとして、コンスタンティノープルの総主教からウクライナを管轄する権限を承認させていたのです。

その結果、ウクライナ正教会のトップはキエフ(キーウ)府主教となっていました。府主教とは総主教の下の階級になります。あくまでモスクワの指示に従う立場だったのです。

動きが決定的となったクリミア半島侵攻

この状況は、ソ連が崩壊してウクライナが独立した後も変わりませんでした。しかし、モスクワ総主教の下のウクライナ正教会での典礼(礼拝)は古代スラブ語で行われていました。ウクライナ語を話す信者にとっては、理解が難しいものでした。そうした不満が募り、モスクワの指導下から抜け出そうという動きが続いていました。

この動きが決定的となったのは、2014年に起きたロシア軍によるクリミア半島侵攻でした。

ウクライナで親ロシア派の大統領が親西欧派の市民の運動で追放されると、プーチン大統領はクリミア半島にロシア軍の特殊部隊を送り込み、武装した兵士たちの監視下で「住民投票」を実施させ、ロシアに編入させたのです。

さらにウクライナ東部では親ロシア派の武装勢力がウクライナからの独立を求めてウクライナ政府軍と戦闘状態に入ります。これに衝撃を受けたウクライナ正教の信者たちは独立を模索します。そして2018年、コンスタンティノープルの総主教によって独立の承認を得るのです。当時は、そもそも対等の立場のコンスタンティノープルの総主教に独立を承認する権限があるのかという問題も生じたのですが、本家の権威を借りて、モスクワから独立したのです。

これにはモスクワの総主教が激怒。コンスタンティノープルとの関係を断絶します。

さらにウクライナ正教会の独立を承認した世界各地の正教会とも関係を断っています。その結果、ウクライナの正教徒たちは、モスクワかキエフ(キーウ)かの選択を迫られ、ウクライナには2つの正教会が存在することになりました。

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