ロシア正教会がウクライナ侵攻を"祝福"する理由 「プーチン政権とのつながり」を池上彰が解説
ひとつは、モスクワの総主教の管轄下にあるウクライナ正教会。信者数は約500万人いましたが、ロシアのウクライナ侵攻で2022年に多くの信者が離脱し、別のウクライナ正教会となりました。
さらにもうひとつは、独立を果たしたキエフ(キーウ)総主教の下のウクライナ正教会。こちらは信者数が約1500万人と数で圧倒しています。実はウクライナには、西部を中心にカトリック教徒も存在します。ただ、このカトリック教会は、他国のカトリック教会とは異なり、典礼(礼拝)は正教会の伝統を守っているのです。
そもそもはポーランド・リトアニア共和国の支配下にあったウクライナ西部の正教徒たちが、1596年、ローマ教皇の主導権を認めて従来のカトリック教会と合同したことで発足しました。もともと正教会だったので、日常の典礼は正教の方式を取りますが、信仰はローマ教皇に従うという教会です。信者数は約600万人と推定されています。
キリスト教と政治の癒着が戦争を推進する力に
2022年2月にロシア軍をウクライナに侵攻させたプーチン大統領は、ウクライナに独立国家としての正統性はなく、ロシアと一体になるべきだと主張しています。プーチン大統領は、侵攻開始前、「我々にとって、ウクライナは単なる隣国ではなく、我々の歴史、文化、精神空間の不可分の一部だ」と主張しました。これはキリル総主教の考えと一致しています。ウクライナ正教会はロシア正教会の管轄下に留まるべきで、独立は許されないと考えているのです。
さらに翌3月、キリル総主教は、性的少数者が性の多様性を認めるように求めて世界各地で展開されているプライドパレードが、ウクライナ侵攻のひとつの原因であると主張しています。保守的なキリル総主教にすれば、性の区分は男性と女性だけであって、性の多様性を認めることは背教になると考えています。ロシアに比べて西欧化が進み、性の多様性についても寛容になってきたウクライナの存在を認めるわけにはいかないと主張したのです。
キリスト教が政治の世界と癒着すると、指導者次第で戦争を推進する力にもなってしまう。宗教の強さと恐ろしさを痛感します。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら