49歳の慶応大元教授が脳梗塞で陥った「超孤独」 暗転した人生「死ぬのも生きるのも怖い」

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頼れる人はいないのか。渡部には同居する78歳の母親がいる。その母親も2年前に一時入院したことをきっかけに介護が必要な状態になった。母親のヘルパーとデイケアサービスの支払いは1カ月で20万円ほどかかる。費用は、年金と貯金を取り崩して賄っている。

これまで結婚したことはない。母親以外には、千葉に住む遠縁の親戚が1人いるだけだ。父親は渡部が1~2歳のときに母親と離婚。父親の暴力が原因だった。離婚後、母は実家に戻り、母と祖父母の元で渡部は育った。

たった数年で孤立した親子

2017年には祖母が他界した。自宅で祖母の介護をつきっきりでしていた母親は外出しなくなり、足腰が衰えていた。以降、渡部は都内のマンションで母親との2人暮らしとなった。

介護が必要になった母と、障害を抱えることになった渡部。2人の暮らしは、たった数年でがらりと変わった。役所に相談したくても、リハビリ病院で自分の現状を正確に伝えたくても、言語障害のある渡部には言葉を尽くせない。渡部に寄り添い、代弁する者もいない。

「私は運悪く珍しい病を抱えていますが、突然、経済的に苦しくなることは誰にでもあることを知ってほしい。自分の現状を少しでも周囲に知ってもらい、何か助けてもらうことができたら……」

インタビューに応じたのはそうした思いからだ。

渡部のように突然病で倒れ、頼れる人がいない孤立状態は、いつ誰にでも起こり得る。60歳以上のデータではあるが、国際比較で日本は家族以外に頼れる人が少ない。2020年の内閣府の調査では、日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの4カ国のうち、同居家族以外に頼れる人として友人や近所の人を挙げた割合は日本が最も低かった。

さらに未婚率が上昇している。国勢調査によると、2020年の50歳時の未婚率は男性28.2%、女性17.8%と過去最高に達した。

未婚化で世帯規模が縮小すれば、家族以外に頼ることが難しい社会では孤立する人がさらに増えるだろう。誰に助けを求めればいいのか。死の恐怖と生きる恐怖の間で渡部は一人、揺れている。

「元気にスポーツクラブに通っていたのが、今では夢のようです。今は自炊ができないため体調を考えた食事もできず、運動もしておらず、長くは生きていけないだろうと思います。いつ起きるかわからない死への恐怖が強くあります。ですが、長く生きてしまったら確実に金銭的に立ちゆかなくなる。生きるのも怖いんです」

11月21日発売の『週刊東洋経済』は「1億総孤独社会」を特集。子どもから高齢者まで身近な人を襲う孤独と孤立の闇に迫ります。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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