49歳の慶応大元教授が脳梗塞で陥った「超孤独」 暗転した人生「死ぬのも生きるのも怖い」

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役所の担当者や郵便配達員との会話にも苦労する。言われたことをすぐに忘れたり、慣れない場所に一人で行ったりすることも難しい。そのような状況で、研究を続けるのはとても無理だった。結局、休職期間を経て大学は退職。出向していた研究所も契約更新せずに辞職した。

渡部は現在、同大学の障害者雇用で臨時職員として働いている。勤務日は週3日、データ入力の作業だ。時給は1150円。その給与と月8万円ほどの障害者年金が現在の収入だ。

「研究職を失った悲しさはあるのですが、それ以上に、人生が変わってしまって、今後どうやって生きていったらいいのかわからない不安のほうが大きいです。今のような状況で、ただ死んでないだけの状態では希望を持てず、かといって自殺する自信もありません。日々、ぼーっとしたまま、悪いことだけが淡々と起きていくという状態です」

銀行行動と応用マクロ経済学が専門の渡部氏(記者撮影)

渡部は慶応大学経済学部を卒業後、1995年に旧郵政省に入省。研究セクションに勤務し、論文の共著者になったことを契機にプリンストン大学大学院経済学研究科に留学した。帰国後は東北大学などで教鞭を執った。日頃からスポーツクラブで運動し、体調に気をつけた食事を心がけていた。

これまで経済的な不安を感じたことがなかった渡部を今最も悩ませているのが、医療費だ。脳の障害に加え、2009年に大腸などの臓器にポリープが多発する「ポリポーシス」という遺伝性の病気を発症していた。定期的にポリープを切除する手術が必要だが、その費用を払い続けることができるのかどうかが不安だという。

現在は慶応大学の健康保険に加入しているため、1カ月医療費が25000円を超えた部分は保険がカバーしてくれる。しかし月々の保険料は高く、非正規雇用のため働き続けられるかもわからない。

困難な状況を理解してもらえない

渡部は脳梗塞で倒れる6年前、手に力が入らないという症状から「もやもや病」と診断された。もやもや病は、脳の血管が細くなり言語障害や手足のしびれが起こる難病だ。脳梗塞はもやもや病の再発が原因とみられる。現在はリハビリテーション病院でリハビリや言語療法を受け続けているが、その費用も不安の種だ。

「もやもや病は手術で治るものではなく、リハビリでも回復するものではないようです。私が十分に会話できないため、私の困難な状況がリハビリの担当者にうまく伝わらず、やるせなさを感じています。リハビリの費用も重く、精神的にも金銭的にもつらい」

病院に同行してくれるヘルパーに支払う費用もかさむ。病院にすら一人で行けないという情けなさに苛まれる。

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