中国に対するタカ派的な見方一色になりつつあるのが今のワシントンだ。中国の振る舞いについてハト派な見方をしてはいないものの、米国側のロジックに懐疑的な中国専門家もいるが、極めて少数派だ。
米中関係が悪化する中で、中国共産党の習近平総書記(国家主席)は異例の3期目入りを果たし、バイデン政権は新たな半導体輸出規制や中国による台湾侵略があり得るとの警告などあらゆる面で厳しい対中アプローチを続けている。
元政府当局者やバイデン政権と定期的に話をする機会のあるアナリストらが匿名を条件に明らかにしたところによれば、台湾への軍事侵攻の可能性といった詰めの甘い議論を含め中国は脅威だという見方を一段と強めている米国のスタンスを懸念しているトップクラスの中国専門家もいる。
米ジャーマン・マーシャル財団でアジアプログラムディレクターを務めるボニー・グレーザー氏は米国側の対中分析について、「ただただずさんだ」と指摘。「対中関係に悪影響を与えるだけでなく、世界中の同盟国やパートナーとの関係にも影響を及ぼす。われわれが阻止しようとしている戦争を引き起こす恐れすらある」とアジア政策について政府に助言する同氏は述べた。
グレーザー氏のような意見はすぐには主流となりそうもない。共和党内には民主党のバイデン政権が中国に十分厳しく対応していないとの批判があり、8日の中間選挙で共和党が議会の主導権を握る公算が大きいことを踏まえれば、米中間の緊張が一段と高まる可能性がある。
反中色が強まるワシントンのコンセンサスを支持する人々とは異なり、一部の専門家は好戦的な言葉を発する中国について、領土の一部と見なす台湾を武力で制圧する準備ができているとは考えていない。中国の台湾を巡る主張と「祖国統一」の誓いは何年も前から実質的に変わりないとの見方だ。
こうした専門家はバイデン大統領が採るアプローチの一端を称賛するが、米中という世界1、2位の超大国が危機や紛争を早める可能性のある非難と報復的行為のサイクルに陥っていることに懸念を抱いていると話す。
米国防総合大学中国軍事問題研究センターのジョエル・ウスナウ上級研究員によれば、一部の米軍幹部が公にした中国が2027年までに台湾を占領するために動き出すかもしれないとの観測は、中国人民解放軍の創建100周年に当たる同年に中国が設定している軍現代化に関する内部目標に基づいているか、そうした攻撃に対抗するため米軍はすぐに準備する必要があるとのストラテジストらの懸念によるものだ。
「あたかも中国共産党にとってある種の政治的タイムラインであるかのように、人々は『27年』にとりつかれている。私は事実誤認だと思う」と説明。「これは準備・用意についであり、『決定が下され、27年にこれを行う』ということではない」と論じた。
バイデン大統領の台湾防衛表明、米国の政策変化を浮き彫りに
バイデン大統領は何度も台湾防衛を誓い、米国が長く掲げてきた中台問題に関する「戦略的曖昧さ」を変化させている。米国が台湾に防衛費を支援する法案やペロシ米下院議長による8月の訪台は、対立をエスカレートさせている。ペロシ氏訪台に反発した中国は台湾周辺で軍事演習を実施。この際、中国が発射した弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。
台湾への関与を強める米国こそが、現状変更を試みているというのが中国側の見解だ。ワシントンにある在米中国大使館のナンバー3、井泉公使は2日、中国政府に台湾との統一に関する時間軸はなく、「武力行使を望んでいない」と中米関係研究所(ICAS)で講演。「5年もしくは10年以内だとか2035年、49年について話す人もいるが、私はそうは思わない」と述べ、「できるだけ早く台湾との統一を果たしたいが、タイムテーブルはない」と主張した。
だが、中国はオバマ政権時代に南シナ海に人工島を造成し軍事拠点化。米政府や人権専門家は中国がイスラム教徒が多く住む新疆ウイグル自治区でのジェノサイド(民族大量虐殺)を行っているとみている。香港に高度な自治を保障していた「一国二制度」を習政権が骨抜きにしたことも、米国側の厳しい対中認識形成の原因だ。
マサチューセッツ工科大学(MIT)安全保障研究プログラムディレクター、M・テイラー・フラベル氏は「米中関係が改善されるとは思えない。両国の関係がどれだけ悪化するか、その関係が競争から敵対的対立に変わるかだけの問題だ」と語った。
原題:Biden’s Hawkish China Tilt Stirs Worry of US Overreaction to Xi (抜粋)
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著者:Iain Marlow
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