台湾のエンジニア集団が「政治」で活躍できるワケ オードリー・タン氏も活躍したコミュニティの今

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左から、オードリー・タン氏、侯宜秀氏、葉向林氏(写真:筆者撮影) 

フォーラム中、オードリー氏の印象的だった言葉がある。

〈g0v〉は2016年に、ポリシーを「分散型組織になろう」から「分散が多数ある組織になろう」へと修正しており、それに関連しての発言だった。

「中心は、“多ければ多いほど良い”ということです。もし私たちが『今、このコミュニティにはもう十分なほど多くの中心が分散している。これ以上中心が増えると多すぎる』と感じたのなら、それはまだ『分散型組織』の段階に過ぎません。『もっともっと増やせるはずだ』と考えるべきなのです」

そして、「自分の領域を超えてコラボレーションしてこそ、既定路線を飛び出すことができる。その行動を続けることで、次第にコンセンサスが得られるようになる。このように“意識して異なる領域とコラボレーションすること”が必要です」と、たくさんの分散の中心を生み出す秘訣にも触れていた。

モデレーターの侯氏が、「オタクっぽいデジタルの技術的な話ばかりを追求していると、それが叶わなくなってしまう。そうなると、(知的財産権の専門家で)ライセンスしか読むことのできない私などは、参加できなくなってしまいます」と付け加え、場を和ませていた。 

〈g0v〉では、エンジニア以外の人々の参加も歓迎している。イベントでの受付、議事録の作成、デザインや通訳など、さまざまなスキルで貢献し合って作られているコミュニティだ(写真:筆者撮影) 

レジリエンスが重視される台湾社会

オードリー・タン氏を生み出せる社会、彼女が活躍できるインクルーシブな社会、それらを生み出すカギとなるのは、「誰かから与えられるのを待つだけでなく、社会の中に、自分と異なる他者とコラボレーションして何かを生み出すことのできる人がどれだけいるか」であるようにも思える。

そうした人が増えれば、社会が強くなると感じるからだ。

ここ数年、台湾政府は繰り返し「レジリエンス(逆境に適応していく力)を持とう」と民衆たちに呼びかけている。2021年度の総統杯ハッカソンのテーマは「サステナブル2.0 レジリエンスのある島々(Sustainability 2.0 Resilient Islands)」であったし、この「レジリエンス」はオードリー氏もよく使うキーワードだ。

確かに、年々強まる逆境に適応する力が台湾に不可欠であることは疑いの余地がない。そして、それは誰かから与えられるものではなく、こうした社会の中にあるコミュニティから自発的に育まれていくものなのだろう。 

近藤 弥生子 ノンフィクションライター

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こんどう やえこ / Yaeko Kondo

2011年より台湾・台北在住。オードリー・タンからカルチャー界隈まで、生活者目線で取材し続ける。東京の出版社で雑誌編集を経たのち、駐在員との結婚をきっかけに台湾移住。現地デジタルマーケティング企業で勤務後、独立して日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作を行う草月藤編集有限公司を設立。台湾での妊娠出産、離婚・シングルマザーを経て、台湾人と再婚。著書に『オードリー・タンの思考』『オードリー・タン 母の手記「成長戦争」』『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』『台湾はおばちゃんで回ってる⁈』がある。

ブログ:「心跳台灣」

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