巷で話題、「公的年金をめぐる2つの提案」の背景 2024年財政検証は出生数減少で一段と厳しく

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岸田文雄首相は、自民党総裁選に立候補した時から、「勤労者皆保険」を掲げている。わが国では、国民皆年金であるから、国民は必ず国民年金か厚生年金のいずれかには加入している。

ここでいう「勤労者皆保険」を年金についていえば、従業員規模が100人以下の企業に勤めている人であっても、週20時間未満の短時間労働者であっても、娯楽業や宿泊業、飲食サービス業など被用者保険の非適用業種に勤めている人であっても、雇われている人(被用者)であれば原則として厚生年金に加入する、ということを意図している。

それは、年金財政の救済のためではなく、年金加入者本人の老後の所得保障のためである。厚生年金のさらなる適用拡大を行って、基礎年金だけでなく所得比例年金も受け取れる形で、給付水準を維持することが必要である。現在、さらなる適用拡大については、全世代型社会保障構築会議で議論が進んでいる。

出生数の減少で年金財政は一段と厳しくなる

2024年に行われる年金の財政検証では、2019年の検証結果よりも厳しい結果になることが予想される。というのも、コロナ禍で出生数が減少しているからである。

2017年に公表された将来人口推計における中位推計では、2028年に出生数が約80万人となると見込まれていたが、既に2021年の出生数は81.2万人まで減っており、7年も早く出生数の減少が実現してしまっている。この出生数の減少は、約20年先から就業者数の減少となって影響が出始め、年金保険料収入の減少という形で年金財政に効いてくる。

保険料水準固定方式をとっている現行の公的年金制度では、保険料率は今後上がらないものの、保険料を納める就業者が減ることは、保険料収入の減少を通じて年金給付を抑制する方向に作用する。だから、老後の年金給付の水準を維持する方策について、今まで以上に真剣に検討しなければならないのである。

2024年の年金の財政検証は、こうした人口動態や就業実態を踏まえつつ、保守的な経済見通しに基づいて議論されることが望まれる。年金改革にトラウマを持つ政治家に忖度して、楽観的な経済見通しに基づいて年金制度の改革を先送りしても支障がないと思わせるような試算結果を出すことは、日本の将来のためにならない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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