ロシア進出の自動車会社が面した2大リスクの罠 カントリーとレピュテーションの板挟みに苦悩

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リスクを抱えつつ、ロシアに残るヨーロッパ勢もいる。完成車メーカーではフィアットやプジョー、シトロエンなどを擁するステランティス、部品サプライヤーではドイツのコンチネンタルなどだ。メーカー、運輸、それぞれの関係者が口をそろえるのは、レピュテーションリスクを最も警戒するのが欧州連合(EU)市場であり、これに次いで米中である。

EUの消費者や市民団体は人権デューデリジェンスをはじめ地球温暖化、脱炭素などに関心が高く、国際法を侵してウクライナに侵攻し、占領地域で人道に反する行為をはたらいているロシアに対し厳しい目を光らせている。アメリカにおいてもこのような傾向が強いが、アメリカを注視する理由は市場の大きさと日本車のシェアの大きさにも由来している。中国はアメリカ市場よりも大きな顧客であると同時に、政府が率先して反日世論を盛り上げた過去があり、官製のレピュテーションリスクを警戒しなければならない。

ロシアに今も残留する欧州勢は、おひざ元での世間の目が厳しい中、レピュテーションリスクをどのように捉えているのか。ステランティスは控えめながらレピュテーションリスクに対して反論を試みている。制裁に伴う撤退は独裁者プーチンへの打撃にならず、工場で失職する労働者の生活を直撃するだけ、と述べ、レピュテーションリスクを喚起したがるメディアと世論を牽制している。

コンチネンタルは生産再開に際し、ローカルな需要に応えることで現地の労働者の生活を守らなければならないと強調した。あくまでも民間の乗用車向けの供給であることが大前提だ。ビジネスはビジネスの論理で動くのであり、そこに政治の判断を持ち込まない、つまり戦地での戦闘に直結しないビジネスは収益が見込める限り続ける、との冷静かつ実利的な一貫性が見える。

2つのリスクの板挟み

ステランティスはプジョー、シトロエン、オペル車を生産するカルーガ工場を、欧州、北アフリカおよび南北アメリカ大陸への輸出ハブに育てようとしていたと言われている。容易にはロシアから撤退できない一方、レピュテーションリスクとカントリーリスクの双方にどのように今後向き合うのか、ジレンマは深い。10月に入り、現代がロシア工場の売却を検討していると韓国紙が報じている。売り上げでは韓国勢に軍配が上がったが、リスク管理では日本勢が正解だった。

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