ロシア工場は現代にとり、トルコ、インド、中国、アメリカ、チェコに次ぐ6つ目の海外拠点となった。部品産業がそろってロシアに進出したわけではないため、現代は海上輸送ではなくシベリア鉄道を使って部品供給をスピードアップさせ、船よりも割高な運賃を交渉で割り引かせ、通関も簡素化させた。現代はトヨタよりもスピーディーで安い供給網を手に入れた反面、公的な優遇を受けることで政治の介入を受けるリスクが増え、現地世論の動向にも神経質にならざるをえない。事業縮小や従業員の解雇に対する反発が大きくなるからだ。
カントリーリスクとしては、予告の無い通関手続きの変更、同じく運賃の改変、最悪は財産収用や工場の国有化などが想定されるが、仮に日系企業が被害を被ったならば、2000年に発効した日露投資保護協定に反する可能性がある。
ウクライナ侵攻で急騰したレピュテーションリスク
ロシアによるウクライナ侵攻により、進出先の現地世論のみならず、西側先進国の世論にも注意を払わなければならなくなった。2月24日の侵攻以降、米欧企業のロシア撤退が相次いだ。フォードが3月27日に撤退を発表し、フォルクスワーゲンは3月に現地生産と対露輸出の停止を発表、そしてルノーの撤退発表は5月16日となった。
米欧各社の発表が一段落した5月、ロシアにおける新車販売台数は前年比9割減まで落ち込んだ。その後、夏にかけて少し回復したが、コロナ禍で振るわなかった前年の5割に満たない状況が続いている。
ルノーの撤退は、とくに大きく報じられた。ウクライナのゼレンスキー大統領が演説の中でルノーを名指しで「ロシアの戦争を助けている」と批判したことを受け、ルノー不買運動がSNS上に出現し、レピュテーションリスクの大きさを思い知ることとなった。地元欧州に次ぐ第2の市場において生産再開を模索していた矢先に、撤退に追い込まれた。
フォルクスワーゲンも7月に工場閉鎖を発表するなどした後、相次いだ生産停止と撤退は、夏にいったん落ち着いた。ここまでが、5月にアメリカを中心とする西側諸国の経済制裁が発効したことをピークとし、レピュテーションリスクが猛威を振るった撤退ラッシュの第1期だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら