トヨタのロシアにおける2021年の生産台数は約8万台だが、これは同社の世界生産のおよそ1%弱にすぎない。同年トヨタのグローバル生産が約856万台、そのうち海外生産が約580万台であり、米中市場が大半を占める。日系各社のロシア撤退はコストが伴うが、痛手が極端に大きいわけではない。これに比べ、ルノーよりも販売台数が多い現代と起亜は、日本勢と状況が異なる。
日韓の似て非なるロシア進出とカントリーリスク
2007年にバルト海に面したロシアの港湾都市であるサンクトペテルブルクに工場を開設したトヨタは、それまでの現地進出のプロセスを踏襲し、カントリーリスクを十分に考えた慎重な戦略を採った。最終的に年産10万台規模の工場となったが、当初は年産5万台からスタートし、部品を日本から持ち込むなど、トヨタの目指す車づくりがブレないことを徹底した。現地工員の手の大きさに合わせるために工程を修正するなど、細部まで「トヨタ式」にこだわった。乱高下が激しい市場のため、生産規模の拡張には時間をかけた。
リーマンショック後の2009年以降、ロシア市場は冷え込むこととなったが、トヨタはフランス工場に先立ち、2010年からヨーロッパ初のハイブリッド現地生産車としてオーリス・ハイブリッドの生産をサンクトペテルブルク工場で開始し、イギリス、トルコ、チェコも含む欧州現地工場のネットワークの中でロシアは一定の位置を占めるようになった。
トヨタは約148億円を投じて工場の生産能力を年産10万台に拡張し、2016年にRAV4の生産を開始した。主にロシア国内向けであるが、カザフスタンとベラルーシに輸出した。新規雇用約800名を加え、従業員数は1900名ほどになった。
対照的に現代は、自前主義ではなくライセンス生産を選び、現地工場を開設する当初から地場の組み立て会社と共に年産15万台を狙い、のっけから巨額を投じた。2011年1月にサンクトペテルブルク工場で生産が開始され、国内向けのほか、ウクライナ、ベラルーシをはじめ中央アジア諸国に広く輸出した。
ERINA(環日本海経済研究所)の報告書によれば、現代はトヨタと異なり、SUVのような高付加価値な車ではなく、ボリュームゾーンであるファミリーカーに的を絞り、国毎にデザインの異なるモデルを機動的に投入した。ウクライナ侵攻を受けて生産を停止する前に年間生産台数は20万台に達し、現代の世界生産能力の約4%を占め、ロシア市場ではトヨタを抜いた。
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