金利上げられない日本を待つ5つの最悪シナリオ 円安続き、企業と個人ともに悪影響及びかねない

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利払いの額は、金利を1%引き上げただけで年間5.6兆円に達する、という試算もある。原則無利息の預金だが、一定の必要額を超えた部分には金利が付く。これまで異次元の金融緩和政策を執っていたため、預ける銀行が利息を支払うマイナス金利が適用されていた。金利が上昇すれば、今度は日銀側が利息を払うことになる。日銀にとっては大きな負担だ。

日本国債暴落懸念は「杞憂」なのか?

債券価格は、金利が上昇すると下落する仕組みになっている。つまり、日本国債の金利上昇の可能性が出ただけで、日本国債を保有している投資家は一斉に売却しようとする。現在、日銀は10年物の長期国債の金利を0.25%以下に抑えこむ「長短金利操作(イールド・カーブ・コントロール)」と呼ばれる金利政策をとっている。

この政策を維持していくために無制限、無条件で国債を買い入れて金利上昇を防いでいるわけだが、アメリカの金利はさらにもう一段の上昇が予想されている。日米の金利差が大きくなって円安が進行する中で、いずれ0.25%のデッドラインを大きく超えてくる場面もあるだろう。

そこで注目されているのが、日銀が保有する日本国債が暴落することで、日銀のバランスシートが悪化して、最悪「債務超過」に陥るのではないか、という説だ。しかし現実は、日銀が保有する国債は満期まで保有することを前提に保有しているため、その可能性は低い。

むしろ日銀が心配しているのは、国債を無制限に発行し続ける日本政府の面倒を見続けられるかどうかだろう。細かなことは省略するが、日銀はこれまで政府の無節操な歳出増加を国債買い取りという形で支えてきた。法律で明確に禁止されているはずの「財政ファイナンス」の状態を、もう数十年にもわたって続けてきている。

日銀が保有する日本国債は546兆円。日本政府が発行する普通国債残高は1026兆円(2023年3月末、見込み)だから、半分以上は日銀が支えていることになる。仮に、このままの勢いで政府が赤字国債に依存する体質を変えなければ、日本銀行はひたすら国債を買い続けなければならない。

もっとも、日銀が金利を上げられない理由は他にも数多く存在する。黒田総裁が、「私が辞任した後でも、金融緩和政策は2~3年は続く」と答えた背景には、構造的に日銀が金利を引き上げられない事情があるからだろう。アベノミクスを推進したリフレ派が現在も日銀の理事や岸田政権内に数多く残っていることを考えると、簡単に金利を引き上げられないのもうなずける。

さて、問題は日銀が金利を上げるのか、それとも上げずにこのまま頑張るのか……。世界中の投資家やエコノミストがその答えを知りたがっているわけだが、仮にこのままの状態が続いたらどうなるのか……。

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