習近平「おきて破り」人事で中国経済に大荒れ予感 首相には実務派よりも「軽量級」の側近を起用

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今回の人事で、中央政治局の人数は25人から24人に減らされた。女性が皆無になったことが注目されているが、経済政策に明るい人材が見当たらないことが気になる。

一方で軍事と密接な分野のエンジニアから国有企業の経営者になった人物が3人も入った。人工衛星やミサイルを手がける中国航天科技集団出身の馬興瑞・新疆ウイグル自治区党委書記、袁家軍・浙江省党委書記と、中国兵器工業集団出身の張国清・遼寧省党委書記だ。習氏による「国家安全」の重視、国有企業優先の傾向がともに出ているように思われる。

中国のビジネス界はこうした流れに敏感に反応しているようだ。東呉証券は10月22日に「国家安全」を買い材料とするリポートを発行した。合計376人いる中央委員と候補委員の経歴を分析した結果、出身者が多い航空宇宙、電子/コンピューター業界、採鉱業、電力エネルギー、軍需産業、農業などが有望だという。

さらに銀行/金融業界出身者の比率が増えており、金融リスクの発生に備えて金融のバックグラウンドがある人材を地方政府に配置した結果ではないかと分析している。

不透明さが増す中国経済の先行きを象徴するかのように、党大会中の10月18日に予定されていた7~9月のGDP統計の発表が直前になって延期された。党大会が終わり一連の人事が出そろった後の同24日になり、ようやく前年同期比3.9%増と公表された。1-9月の累計では同3.0%で、通年で5.5%前後という政府の目標には届かない可能性が高い。

発表が遅れた理由については説明がない。それが、「習氏の3期目入りに水を差すのを恐れた事務方が忖度したのではないか」「1-9月累計が3%を割らないように数字を操作していたのではないか」といった憶測を呼ぶ結果となっている。

最高指導者が「国家安全」を最優先する姿勢を鮮明にするなか、中国では経済運営に関するルールはどんどん壊れていくのかもしれない。一連の「おきて破り」人事からはそんな不吉な雰囲気が伝わってくる。中国経済の大荒れに備え、今からシートベルトをしっかり締めておく必要がありそうだ。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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