習近平「おきて破り」人事で中国経済に大荒れ予感 首相には実務派よりも「軽量級」の側近を起用

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汪洋氏は安徽省で市長を務めていた時代に鄧小平に見いだされた、改革開放路線を体現する人物である。広東省のトップである党委書記時代には、低賃金の加工貿易からの脱却を主導したことで有名だ。一貫して日本重視の姿勢を続けてきた、中国共産党には珍しいリーダーでもある。

汪洋氏から広東省党委書記を引き継いだ胡春華氏は、現在は副首相を務める。担当は農業・農村問題や社会保障で、習政権が実績として誇る農村の貧困脱却の指揮をとってきた。16歳で名門の北京大学に進学した秀才で、志願して赴いたチベット自治区で当時党委書記だった胡錦濤氏・前総書記の知遇を得た。

いずれも実績は申し分ない汪洋氏、胡春華氏だが、胡錦濤氏との関係が深い一方で習氏との距離が遠いことがあだになった。汪洋氏は68歳に達していないのに退任。胡春華氏は中央政治局委員にもとどまれずヒラの中央委員に格下げとなった。習氏は「おきて破り」連発の一方で、自分との距離で人事を決める方針を隠さなくなった。

李強氏は習主席の側近中の側近

一方で李強氏は習氏のお気に入りとして知られる。1959年浙江省生まれで、2013年に省長を務めるまで一貫して浙江省内で地方官僚としてキャリアを積んできた。2003年から2007年まで浙江省党委書記だった習氏には秘書長として仕えている。李強氏は習氏が浙江省を去った後も2011年まで同じポジションにあったが、2012年に習氏が総書記になると猛スピードで出世を始めた。いかに習氏に信頼されているかがわかる。

2013年には浙江省の省長(党委書記に次ぐナンバー2)に就任、2016年には江蘇省の党委書記に転じた。2017年には党中央政治局員となり、上海市党委書記に就任している。途中で失脚しない限り常務委員への昇格が望める登竜門だ。

李強氏は浙江や上海のビジネス界からも評判がよく、出世コースを順当に歩むものと思われたが、大きな試練が待っていた。今年3月末から2カ月にわたって続いた上海市のロックダウン(都市封鎖)だ。習氏のゼロコロナ政策を徹底的に守った結果だが、地元のトップである李強氏は怨嗟の的となった。住宅地の視察に出向いた際に住民に詰め寄られた動画が出回るハプニングもあり、これでは常務委員昇格は難しいとの見方も広がった。

人口2600万を超える最大の経済都市である上海のロックダウンが中国経済に与えた打撃は大きかった。中国の4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比0.4%増と、1~3月期の4.8%増から急減速したのだ。しかしふたを開けてみれば、傷になるどころか、李強氏は習氏への徹底的な忠誠を評価される結果となった。

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