水戸:職員によって知識量や対応力にムラがあるなと感じることはありますが、これはどこの組織でも当てはまることですよね。でもその一方で、JASSOの場合は奨学金という制度が複雑化しすぎた結果、職員間の知識量にムラが出てしまっている面はあると思います。
千駄木:なんだか日本社会の縮図のような気がしてきました。
現在は制度の問題点を現場に丸投げの状態
水戸:他の例を出すと、例えばJASSOには返還誓約書という書類があります。貸与奨学金を借り始めた学生全員が必ず提出する契約書なんですが、「今まで書類窓口になっていた会社が、ある年を境に別の会社に変わった」ということが実際にありました。確証はないですが、中の関わる人が後者の会社に移動した、ということはないでしょう。
返還誓約書は契約内容や個別の状況によって完成形が異なり、確認すべき要素も多様かつ独特です。書類の確認には専門知識と経験が必須なのですが、JASSOは公的な機関ということもあってか、3年ほどで委託先が変わるんです。
千駄木:つまり、複雑な奨学金制度に詳しくなった、選りすぐりの人材が関われなくなった……と。
効率化の名のもとに、人にかけるお金を減らした結果、個々人の負担だけが増えて、効率的でもなくなっているという、日本のあちこちで見られる光景だと感じます。
水戸:つまり、今の奨学金制度は、人に頼りすぎているんですよ。
私は奨学金制度が、今の学生にとって最適なものであってほしいのです。そのためにも、大学の奨学金担当という現場にいる人間としては、「奨学金制度の問題点を現場にすべて任せる」というのはやめてほしいですね。
給付型奨学金についても、お上が「今度から、こういう制度を始めるからよろしく!」という具合に、現場に丸投げしている状態なんですね。
私は他大学の奨学金担当からも「現場が回らない」との相談を受けることがありますが、例えば、審査の制度上、1カ月以内に済ませられるものが、職員の手が回っていないので3カ月かかることなんてザラです。制度上はすぐに採用されるはずの学生でも、いつまでも入金されなくなってしまうんです。
千駄木:これまでの奨学金報道は、JASSOがスケープゴート化されてきたんだと思います。もちろん、彼らに改善してほしいところはたくさんありますが、「現場の人」でしかない彼らをスケープゴートにするのは思考停止でしかない。真に問われるべきは、人や教育にお金をかけない、日本という国の姿勢です。だからこそ、奨学金をめぐる問題には、今の日本が抱えるさまざまな歪みが現れているのだと感じます。(後編はこちら)
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