業者は見た!「タワマン」の悲惨なリフォーム現場 マンション管理組合が責任を問われる可能性も

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工事の承認を行うのは、区分所有者の代表で構成された理事会(修繕委員会)となる。理事会の審査を経て、最終的には理事長が工事を承認する。ただ、あくまで区分所有者の代表である理事会は、建築の専門家ではない。専有部分の改修工事に関する特別な知識がないため、見落としや認識違いといったミスが生じかねない。

また、理事会の運営は多忙な日常の合間を縫って行われる。限られた時間の中で審査を行うことになる。実質的に審査そのものが行われていない、チェック体制が機能してないあくまで「形式的な」工事審査にすぎない状態となる。さらにマンション管理を専業とする管理会社が、リフォーム工事について理事会をサポートするケースも少ない。

これらの要因が、タワーマンションのリフォームの工事に関するトラブルを増やす結果につながってしまう。ただ、形式的であっても工事を承認しているのは理事会だ。トラブルが発生した場合、理事会が法的責任を追及されるリスクは否定できない。

無用なトラブルを回避するためには区分所有者(入居者)、管理組合それぞれが対策を講じる必要がある。

急がば回れの心構えで準備を

まず、入居者がリフォーム工事を希望するときには、タワーマンションのリフォーム、リノベーションに実績のある施工会社を選ぶことを優先したい。例えば【CASE:3】の戸境壁の事例のように、タワーマンションに詳しい施工会社ならば考えられないような工事をする可能性はなくなるだろう。

さらに理事会、理事長の承認に加え、上下左右の住戸の承諾を必要とするマンションもある。工事の申請を行う場合、計画的な工事スケジュールを立て、余裕を持って申請を行ってほしい。

マンションの管理組合としては、どんな対策を取るべきだろうか。国交省は『マンション標準管理規約 第17条』のコメントにおいて、以下のように記している。

承認を行うに当たっては、専門的な判断が必要となる場合も考えられることから、専門的知識を有する者(建築士、建築設備の専門家等)の意見を聴く等により専門家の協力を得ることを考慮する。
特に、フローリング工事の場合には、構造、工事の仕様、材料等により 影響が異なるので、専門家への確認が必要である。

リフォーム工事の申請内容について、建築士などマンションの管理や修繕などに関する専門知識を有する専門家に助言を求めるのも一案だ。最初から審査の代行を依頼する方法もある。さらに複雑な工事の場合、管理組合が中間検査、完了検査などを専門家に依頼するなどの選択肢もある。

ある種遠回りのように見えるかもしれないが、最終的なトラブルを回避するためには「急がば回れ」の心構えで準備をしておきたい。

長嶋 修 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長)

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ながしま おさむ / Osamu Nagashima

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、さまざまな活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。主な著書に、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)、『「マイホームの常識」にだまされるな!知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)など。さくら事務所公式HPはこちら
 

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