この詩はSUGAそのものという感じがします。彼は、私の中では「幸せ」と「苦しみ」のアンビバレンスの象徴のような存在であり、それがBTSというチームが放つメッセージの中心にあると思います。
彼自身、そのアンビバレンスについて語り続けてきましたが、それをネガティブにとらえる向きがあることはいささか残念です。実際に、今年の「防弾会食」では、「この仕事をしながら、楽しかった瞬間のほうがずっと多いけれど、本当につらかった瞬間もすごく多い」という発言が誤解されました。幸せや喜びだけを手にすることなんてできないし、それではむしろつまらないと、彼は思っているのですが。
変にポジティブすぎるメッセージは、リアリティがありません。子どもを持つ親の中には「うちの子には楽しいことや好きなことだけやってほしい」という人もいますが、それだけしかやっていない大人なんていないじゃないですか。むしろ、幸せと苦しみが混ざり合っているからこそリアルなわけで、そういうネガティブな面をまったくごまかさずにデビュー当時から伝えてきたのが、BTSの楽曲です。大人は自分の人生を漂白したい願望があるのか、子どもにきれいな部分だけ伝えようとするところがあります。SUGAの一貫したアンビバレントな姿勢は、そういう大人の虚偽に対するカウンターになっているのです。
今年6月にリリースされた『Yet To Come(The Most Beautiful Moment)』のMVでは、砂漠に立つメンバーたちが映し出されます。彼らはそこで波の音に耳を澄ませながら、砂漠に居続けようとします。
BTSの楽曲において海と砂漠の比喩は希望と絶望の象徴として何度も登場してきました。このMVが語るのは、彼らが波打ち際に立ち続ける意志です。つまり、この世界ははじめから絶望であり、試練が絶えないけれども、それをごまかして安楽に浸ることはせずに、その現実世界のリアリティのままに幸せと苦しみを味わっていきたいという誓いがこの曲とMVには込められています。まさにBTSのアンビバレンスを凝縮したメッセージがそこには詰まっていました。
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