仲間を解剖した人間へ抗議?アザラシの凄い行動 アザラシが亡くなった翌日に起きた不思議な事

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前日、たくみくんが亡くなったあと、アザラシペン(アザラシの病院)の中で解剖を行っていた。解剖終了後の清掃時に、換気のために、広場へとつながるペンのシャッターを開けたのがまずかったのだろうか。

ニオイなどでアザラシたちにたくみくんが亡くなったことが伝わり、翌日のそれは、たくみくんを死なせてしまった私への抗議やボイコットだったのではないかと感じた。

ワモンアザラシやゴマフアザラシは、繁殖期や換毛期以外は単独で生活している。多くの個体が集まる繁殖期や換毛期でも、同じ場所を繁殖や休息の場として利用しているだけで、群れとしての仲間意識があるのかどうかはわからない。

常に集団生活をしているとっかりセンターのアザラシたちは、子ども同士では一緒に遊ぶ行動が観察されるが、大人たちは互いに「我関せず」という雰囲気である。

しかし、それまでにも、亡くなった保護個体や飼育個体の解剖はアザラシペンで行っており、特別に意識したことはないが、シャッターを開けたこともあったと思う(たくみくんの一件以来、解剖後にシャッターを開けないように気をつけている)。

それでも、アザラシが広場へ出てこなくなることは一度もなかった。また、この時も広場には出たくないというだけで、餌のバケツを持ってプール前の丘場に呼べば、いつものようにアザラシたちは私のところへ集まってきた。

同種を傷つけた人間に対する恐怖や不信感で広場に出てこないのだとしたら、たとえ丘場であっても、人間には近づかないだろう。きっと彼らには、何か伝えたいことがあったのだと思う。

そして、広場へ出てこないのは、言葉をもたない彼らが、そのことに気づいてもらうためにとった行動なのだと感じた。それだけ、たくみくんが他のアザラシたちに慕われていたのだろうと、そう考えずにはいられなかった。

2か月も私を避けていた海くん

その証拠に、翌日にはいつもどおりに戻るアザラシが多いなか、2頭だけ、その後もしばらくのあいだ、私のことを避け続けるアザラシがいた。たくみくんと仲が良かった海くんと、解剖が行われていたペンの中にいためめちゃんだ。

海くんはその後、2か月近く私のことを避けていた。他の飼育員からは普通に餌を食べるのに、私が呼んでもプールから上がってこなかったり、上がってきても出された魚を食べなかったりした。海くんに避けられるのは悲しいが、海くんがそれだけたくみくんのことを大切に思っていたのかもしれないと思うと、少し嬉しかった。

そして、大切な友達の命を救えなかったことへの申し訳ない気持ちでいっぱいだった。今でもときどき、海くんは思い出したように私を避けることがある。どうかいつまでも、たくみくんのことを忘れないでいてほしい。

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岡崎 雅子 元アザラシ飼育員

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おかざき まさこ / Masako Okazaki

1986年、神奈川県生まれ。水瓶座のAB型。日本大学 生物資源科学部 獣医学科卒業。幼少期からのアザラシ好きが高じて、北海道紋別市にあるアザラシ専門の保護施設「オホーツクとっかりセンター」で念願の飼育員になる。10年間の飼育員生活のなかで出会ったアザラシは69頭以上、そのうち38頭の保護に携わる。アザラシが前肢で顔をぬぐう仕草が好き(ぎりぎり顔に届くくらいの短い前肢が愛おしい)。好きなアザラシの部位は顔(表情がとても豊か)と、脇の下(柔らかくて触り心地が最高。脇の下をフニフニしている時に、その手を前肢でギュッと握られるのが至福)。著書に『寝ても覚めてもアザラシ救助隊』(実業之日本社)がある。

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