地方芸術祭が掘り起こす土地の歴史と感性の融合 「大地の芸術祭2022」に見る農村文化体感の意義

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十日町市の中心部にある越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ)の展示も少し紹介しておこう。同館は作品を所蔵しているような美術館とは異なり、時期によって展示内容を変える、いわゆるギャラリーに近い施設だ。

中庭部分に水を張って池にしたのは、アルゼンチン出身のレアンドロ・エルリッヒ。しばしば錯視を表現に取り入れてきた、金沢21世紀美術館の恒久設置作品「レアンドロのプール」が有名な作家だ。この作品でも、池が鏡面になることを利用した実像と虚像のないまぜになった表現で鑑賞者を楽しませる。

人工的な霧を発生させることによってできる中谷芙二子の霧の彫刻は、父親で雪の研究者として知られた物理学者、中谷宇吉郎をほうふつとさせる。固体ではなく、一瞬として同じ姿を保つことのない霧の彫刻もまた、実像と虚像の間を行き来する存在のように見える。エルリッヒの「レアンドロのプール」の上で中谷の「霧神楽」が展開することには、表現に深みをもたらす相乗効果がありそうだ。

もっとも、訪れた人は、こうした作品と自由な気持ちで向き合い、それぞれの感想を持てばいい。ただ、ここにしか存在しない表現を鑑賞できるのは、非常に貴重なことである。

中谷芙二子「霧神楽」
十日町市の中心部にある越後妻有里山現代美術館 MonETより。回廊に囲まれた中庭部分では、水が張られて池となったレアンドロ・エルリッヒ「Palimpsest: 空の池」の上で、中谷芙二子「霧神楽」を見られる時間帯がある。筆者が見た時はたまたま、まるで葛飾北斎が描いた大波のような様相を呈していた(作品は9/4 で公開を終了)(撮影:小川敦生)
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