このようなことが起こるのは、顧客側にも問題があります。「自分が電話しているのに、留守番電話とは何事だ!」と立腹する人は、まだいます。皆さんも、心当たりがあるのではないでしょうか? そのため、高給の部長さんが「電話番」のような仕事をせざるをえなくなってしまうのです。逆に、こちらも顧客に対してしかられないように、留守番電話は使えない……。まさに、首を絞め合っている状況です。
こういう話をすると、「いや、それが日本の企業のよきところだ、おもてなしの心だ」と言う方がいるのですが、私はこの例のような、効率を重視しない働き方こそが、大きな病巣だと考えています。もちろん、おもてなし的対応のよさという側面はあります。しかしながら、「費用対効果」が重要で、ここをうまくやることが、企業単位の「要領」でもあるわけです。
「匠」を非効率の言い訳にしていないか
私たち日本人は、職人芸的なこだわりの世界、いわゆる「匠」を美化します。おもてなしもその一環でしょう。確かにその姿勢は、技術力向上には必要ですし、1990年代初頭のバブル期までの、モノ作りを中心とした企業社会では、成功の要だったでしょう。
一方、物事には逆の側面があります。日本の製品がアジアの国々の企業に負ける理由のひとつに、「過剰品質・高価格」という問題があります。新興国での市場拡大の担い手である中間層は、職人技的な機能や品質でなくとも、まずまずの品質で低価格のものを求めるわけです。たとえば、プラズマテレビの技術は日本を代表する産業界の匠のひとつだったかもしれませんが、価格で苦戦を強いられました。そこまでの高品質ニーズはなかったのです。
このように、匠的な志向は、プロダクトアウト傾向という問題を内包しています。いいものを作るのは重要なことですが、そこにどれだけの顧客がいるかを考えず、いいものだったら売れると考えるのは間違いなのです。そうではなく、マーケットイン志向、たとえば最近よく言われる「モノ作りより、コト作り」が重要なのです。モノを作るよりも、お客さんがモノの消費を通してどんなコト(イベント)を楽しもうとしているかを把握して、商品を作ることが大切なわけです。
過度な匠への志向が独りよがりの世界を作り出し、顧客志向を忘れてしまっては本末転倒です。誤解を恐れず、あえて言わせていただきますが、「匠の世界を求める」ことが非効率をごまかす言い訳に使われているケースも多いのではないでしょうか?
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