「うつは甘え」精神論を語る人が知らない最新事情 うつ病患者は細胞の老化が2年程度加速している

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一方、抗うつ薬であるフルオキセチンを投与すると、社会行動障害が回復し、新生ニューロンの生存が促進されました。脳では、自分がしていなくても見ただけで活性化するミラーニューロンがあり、共感の元になっていると考えられています。誰かがいじめられているのを見て、もしくはニュースで聞いただけで心が痛むのも、この共感能力によるものなのかもしれませんね。

うつのリスクは血液検査でわかる!?

米インディアナ大学医学部の研究者は、過去20年にわたって細胞を遺伝子レベルで診断し、1人ひとりの患者にぴったりな治療を行う「プレシジョン・メディシン」を研究してきました。その中で、血液に含まれるバイオマーカーを調べることで、自殺傾向、痛み、心的外傷ストレス障害(PTSD)、アルツハイマー病を診断する方法を考案してきました。

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患者の主観的な自己申告や医師の勘が必ずしも信頼できない疾患において、血液バイオマーカーは重要なツールとなりつつあります。特に、脳は生きたままでは簡単に生体検査ができません。そのためこれらの血液検査は、正確で個別化された薬剤とのマッチングや、治療に対する反応の客観的なモニタリングへの扉を開くことができるといいます。

最近の研究では、これまで評価が難しかったうつ病や双極性障害を、客観的に診断する血液バイオマーカーの特定が試みられてきました。研究チームは、300人以上の患者の精神状態を4年間にわたって追跡し、そのときの血中バイオマーカーの変化との関係性を調査しました。その結果、うつや双極性障害の状態を示す26のバイオマーカー候補を特定しました。

この検査に基づけば、うつ病の重症度、重症うつ病になるリスク、双極性障害(そううつ病)になるリスクを客観的に把握することができます。それだけでなく、患者に最適な治療法を考案する手助けにもなるとのことです。

いまや4〜5人が、生涯に1回は医者にかかるような気分障害を経験するという事実を考えると、このように血液診断で簡単に診断でき、個人に合わせた最適な治療法を提案してくれるという取り組みは、非常に重要なものといえるでしょう。

毛内 拡 お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 助教

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もうない ひろむ / Hiromu Monai

1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科 博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員を経て、2018年よりお茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。生体組織機能学研究室を主宰。脳をこよなく愛する有志が集まり脳に関する本を輪読する会「いんすぴ!ゼミ」代表。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、マウスの脳活動にヒントを得て、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を目指している。研究と育児を両立するイクメン研究者。分担執筆に『ここまでわかった! 脳とこころ』(日本評論社)など。

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