インフレに慌てる日本を襲う「次なる危機」の正体 「スタグフレーション」に転落する瀬戸際

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2022年の春闘では、大手企業は2.27%の賃上げを実現したとされていますが(5月時点)、賃金上昇分のほとんどは、年齢給など定期昇給によるもので、本当の意味での賃上げに相当するベースアップ(ベア)分は1%以下です。4月の段階ですでに消費者物価指数は2.5%ですから、実質的に賃金はマイナスと考えてよいでしょう。

物価が上がっているにもかかわらず、賃金がそれに追い付いていない状況ですから、厳密な用語の定義はともかく、見方次第では、すでにスタグフレーションに入っていると考えることも可能です。

日本経済はまさに瀬戸際

困ったことに、日本の場合はインフレによるコスト上昇に加えて、円安という特殊要因が加わっています。円安が進んでいる詳しい理由については次回解説しますが、日銀が量的緩和策を継続し、低金利政策を維持する限り、円安が進む可能性が濃厚です。

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日本の輸出が活発だった時代は、円安が進めば輸出企業の業績が上向き、賃金の上昇が期待できました。ところが現在、製造業の多くは生産極点を海外に移しており、以前ほど円安によるメリットは享受できない体質になっています。

いっぽうでエネルギーや食糧に加え、最近ではスマートフォンや家電など、工業製品についても輸入に頼るようになっています。ただでさえ、海外の物価が上がっているところに円安が加われば、輸入品の価格が上昇し、国民生活はさらに苦しくなります

もし、企業がコスト上昇分を適切に価格に転嫁できなかった場合、さらなる減益や賃下げに追い込まれる可能性が高いと考えられます。企業が輸入価格の上昇を製品に転嫁しないということは、国民全員が貧しくなることとほぼイコールであり、これはまさに不景気下のインフレ、つまりスタグフレーションです。

ひとたびスタグフレーションに転落した国が、事態を改善させるのは容易なことではありません。日本経済は、まさに本格的スタグフレーションに転落するかどうかの瀬戸際に立たされているのです。

加谷 珪一 経済評論家

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かや けいいち / Keiichi Kaya

仙台市生まれ。1993年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在、「ニューズウィーク(日本版本誌)」「現代ビジネス」など多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。著書に『新富裕層の研究』(祥伝社新書)、『戦争の値段』(祥伝社黄金文庫)、『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『縮小ニッポンの再興戦略』(マガジンハウス新書)など多数。オフィシャルサイト http://k-kaya.com/

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