日本が「中国と台湾の緊張関係」から学ぶべきこと シャープパワーに対応できる体制の構築が必要だ

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22演習をめぐる一連の経緯に鑑みれば、日本はシャープパワーに対応する体制づくりを急がねばならない。日中の緊密な経済的な相互依存関係は、中台のようにシャープパワーのルートにされかねない。だが、日本ではいまだにインフラ設備に中国製の部品が使用されることが多く、中国のサイバー攻撃を受けやすい。

日本にとってのインプリケーション

ファクト・チェックなどのフェイクニュース対応も十分とは言えず、メディアや有識者さえ中国によるフェイクの情報を鵜呑みにする恐れがある。22演習に関しては、朝日新聞や東京新聞は前述した合成写真を報道で使用し、共同通信社による当該の写真を使用した記事を産経新聞はそのまま転載していた。

一方で台湾においては、一部のメディアと研究者などが日本は台湾を守るために中国に対抗すると過剰に世論を誘導しているという問題がある。例えば、台湾有事の際に「アメリカ軍の参戦を信じる」人は34.5%(参戦しないは55.9%)、「日軍(自衛隊)の参戦を信じる」人は43.1%(参戦しないは48.6%)という調査結果(「民意調査基金会」<Taiwanese Public Opinion Foundation>、2022年3月22日発表)があり、日本の参戦を信じる人が多い。こうした日本の実態と乖離した誤解は、結果的に日台間の混乱を招きかねない。

したがって、日本政府は民間と連携しながらシャープパワーに対応するための体制を速やかに構築するのが望ましい。また、これまで日本は日米台共催で地域共通課題を議論する「グローバル協力訓練枠組み」(GCTF:Global Cooperation and Training Framework)を通じてメディア・リテラシーやサイバー犯罪対策などの交流を台湾と行ってきたが、さらに積極的にシャープパワーの対策に関する交流を行う時期が来ている。

台湾が22演習をめぐる危機にどのように対応したかは、日本の安全保障体制の強化のためのヒントを提示している。日本は中台関係をめぐって関係の調整だけ考えるのではなく、台湾を、安全保障体制を強化するための「手本」とみなすべきである。

(黄偉修/東京大学東洋文化研究所 特任研究員)

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