日本が「中国と台湾の緊張関係」から学ぶべきこと シャープパワーに対応できる体制の構築が必要だ

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また台湾社会に目を転じれば、蔡政権になってから中台の経済相互依存に基づく交流は、親中派のメディアやSNSによるフェイクニュースの流布、中台交流に関わる団体や中国に進出した台湾企業による台湾内部への働きかけなど、中国によるシャープパワーの浸透をもたらした。蔡政権は2018年の統一地方選挙において敗北した際にフェイクニュースの影響を重視し、監視体制を強化して積極的にファクト・チェックを発信するようになった。

22演習を事例とすれば、中国は8月6日の朝、台湾の海岸に接近した中国の軍艦に搭乗した兵士が双眼鏡で対峙している台湾の軍艦をのぞく写真を発表したが、台湾軍は即座に合成写真であることを発表した。また4発の弾道ミサイルが台湾本島の上空を通過した事に対しては、蔡政権は、弾道ミサイルが領空よりさらに高い位置(宇宙空間に近いカーマン・ライン<Kármán line>)を通過したことを理由に公表を控えた。

これは世論の動揺を避けるためだったと考えられる。しかしミサイルの軌道を日本の防衛省が発表したことに蔡政権は即応し、ミサイルがカーマン・ラインを通過したため空襲警報の発令とミサイル防衛システムによる迎撃の必要がなかったという補足説明を行った。

多くの台湾市民がつねに中国の圧力を認識している

外国のマスコミや研究者にとって台湾市民の冷静さはある種異常に見えたかもしれない。前述した弾道ミサイルの発表を控えた事に加え、蔡総統が観光促進のイベントに出席するなど、政権は市民を安心させるための施策も採っていたが、多くの市民が台湾はつねに中国の圧力を受ける状況にあると認識していることが、おそらく最も重要であった。

中国によるサイバー攻撃およびフェイクニュースは台湾人にとって日常生活の一部であり、影響されないための情報の確認や、政府に対する情報提供を行う市民も少なくない。前述した中国による合成写真が発表された直後にも、その海域で営業しているホエールウォッチング業者が中国の軍艦を見ていないとSNSに投稿していた。

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