ENEOS会長「性加害騒動」に見た不祥事隠しの痛撃 「隠せる時代」は去り、「守りの広報」の重さ増す

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私の先輩記者は、かつて自分が担当した企業の不祥事対応に「感心したことがある」と話してくれました。その企業は不祥事をすぐに認めて発表したうえで、記者会見を開きました。会見は3時間ほど続き、会見場の制限時間がきてしまいました。そこで、希望する記者たちを自社の会議室に招き、残りの質問をすべて受けたそうです。

説明責任果たす姿勢や「適切な守りの広報」が重要に 

会見は深夜1時過ぎに及びましたが、翌日以降はメディアからの追及はほとんどやんだそうです。不祥事の会見は、企業にとっては「記者との根比べ」ともいえ、すぐに真実を公表することや、記者が納得するまで誠実に情報を開示することが最悪の状況を招かないために重要だと思います。不祥事を起こした企業の発表やメディアの報道から十分な情報が得られれば、多くの視聴者や読者もある程度は理解してくれます。

もちろん、企業広報をやっていると「どうしても公表できない」というケースもあるでしょう。しかし、企業広報や経営者が理由も言わずに一方的に「絶対話さない」という態度や言動をとってしまえば、多くの人たちの反発を買い、問題は大きくなってしまいます。こうした場合は、どうすれば良いのでしょうか。

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メディアとしては、仮に企業広報が事実を言えない場合も、「しっかりした言えない理由があればある程度納得できる」ことがあります。例えば、「法令上、言うことができない」「取引相手に迷惑をかけてしまうため、現時点ではいえないが、〇〇日には話すことができる」といった説明を誠実にすれば、批判が批判を呼ぶ最悪のケースを避けやすくなります。

「企業が不祥事を隠蔽でき、強引にもみ消せる」という時代は過ぎ去りました。一方で、多くの人が働く企業では不祥事が起きないという保証はありません。経営環境の変化と自社の置かれた状況を冷静に認識し、いざ不祥事が起きた際に適切な対応をとれる体制を整えることが、企業にとってさらに重要になってきたと言えるでしょう。ガバナンス重視の流れが強まる中、適切な「守りの広報」は企業にとって必須科目なのです。

日高 広太郎 広報コンサルタント、ジャーナリスト

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ひだか こうたろう / Kotaro Hidaka

1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。その後、小売店など企業担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年に東証一部上場のBtoB企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。クライアント企業のメディア掲載数を急増させている。

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