「連合会長の国葬出席」が労働者の分断を深める訳 「労働者の代表」として出席、傘下労組は反対

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このような一線の働き手の疑問がくすぶる中で「国葬への出席」を決めたことは、労働者の間の分断を深め、要求を勝ち取る力をさらに削ぎかねないという懸念も出ている。

芳野会長が「労働側代表」として弔意を示すと、賛同できない労働者は「自分たちは代表されないのか」と疎外感を抱く。また、労働条件の改善のためだけに加入した組合員まで、意図せずして弔意を強制されてしまう。これでは働き手は安心して労組に加入できない。

労働側の国葬出席は海外への配慮?

芳野会長は記者会見で、「政労使三者構成の一角」である労働界」で「労働側が出席をしていないということが海外の来賓の方々からどう見られるのか」とも述べた。

これも妙だ。政労使交渉は、立場の違う3つのステークホルダーが対等に一堂に会して落としどころをさぐり、働き手の労働条件の向上を最適な方法で実現するためのもので、海外に向かって「政労使の和」をアピールするための装置ではない。とすれば、海外への配慮以前に、一線の労働者への配慮による団結の強化こそ優先されるべきだ。

ここに薄ら寒さを感じるのは、「政労使」という労働者のための基本的枠組みが、国の体面のためのものにすり替わってしまったかに見えるからだ。

連合で役職を経験したこともあるベテラン組合員は、「労組の役割は企業や政府と交渉し、下からの圧力によって労働者に必要なものを獲得するということ。その基本が弱まり、政府の提案に対して提言する諮問機関のような傾向が見える」と心配する。

「民主党政権の登場のとき、労組が与党の一角を占めたように錯覚し、力による交渉をためらう人も出た。そもそも労組は労働者の立場から全方位に是々非々で要求すべきものだが、自民党政権への交代後もそのときの発想が転換できていないのでは?」

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