「連合会長の国葬出席」が労働者の分断を深める訳 「労働者の代表」として出席、傘下労組は反対

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それらの背景にあるのが、この間の労働者の分化の進行だ。

橋本健二・早稲田大学教授は、労働者階級の間で、生計を維持でき、長期雇用で、家族を形成して次世代を再生産することができる待遇が前提の従来の労働者(正規労働者)に対し、雇用が不安定で賃金が低く、次世代の再生産さえ難しい「アンダークラス」(非正規労働者)が増えていると指摘している。

2021年に行った「3大都市圏調査」でも、2019年と比べてコロナの感染拡大でもっとも世帯年収が影響を受けたのは、休業を余儀なくされた自営業層を多数含む「旧中間階級」(15.6%減)だが、時給制の非正規を中心とするアンダークラスも12.0%減とこれに続く被害を受けている。一方、スキルや専門性を通じて「資本家階級」から「労働者階級」の監督などを任された「新中間階級」や、月給制で解雇も少なかった正規労働者は、影響が5.6%減にとどまったという(『POSSE』2022年4月号)。

このような状況で、労組を本当に必要とする働き手は、非正規労働者を中心とする現場労働者たちであるはずだ。だが、正社員以外は加入資格さえない労組が6割程度あり(「令和3年労働組合活動等に関する実態調査」)、加えて、短期雇用であるため、労組をつくろうとすると、契約を打ち切られることが怖くてつくれないことも多い。

いまやこうした非正規労働者は労働者の4割を占め、スーパーのレジや接客・販売など職場の一線を担い、新型コロナの拡大下でエッセンシャルワーカーとしても注目される。それなしでは現場が回らない基幹労働力だ。一方、労組に加入できる正社員の多くは、一線を支える多数の非正社員を管理する役割が強まりつつある。これでは、労働者からの圧力はなかなか強まらない。

デフレの長期化にはさまざまな原因が指摘されているが、こうした一線の基幹労働力からの賃上げ圧力を吸い上げるべき労組の組織率が約17%にまで落ち、十分に機能しなくなったことは大きい。

「ほかにやることはないのか」という反応も

今回の国葬参加は、全国ユニオンの指摘にもあるように、こうした見えにくい労働者の反応を度外視して決定されたという意味で、労働者の疎外感や労働者間の分断をさらに促進する恐れがある。

実際、今回の国葬への出席について、労働問題に関心を持つ複数の非正規労働者に意見を求めると、「ほかにやることはないのか」「コメントする気も起きない」というしらけた反応が続いた。

今回の国葬問題で表面化した異論を、労働組合があらためて現場労働者と向き合い、賃上げへの求心力を強めるための警戒警報として生かすべきだ。労組は、海外からの来賓に向けた儀式の装置ではなく、労働者の団結を生み出すための社会の公共財なのだから。

竹信 三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

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たけのぶ みえこ / Mieko Takenobu

東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授・ジャーナリスト。2019年4月から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

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