「連合会長の国葬出席」が労働者の分断を深める訳 「労働者の代表」として出席、傘下労組は反対

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鈴木会長によると、反対声明の根拠となっているのは、連合の行動指針(2005年10月6日、連合第9回定期大会決定)2条の「私たちは、組合員の視点に立った運動を展開するとともに、全ての勤労者・市民に共感される運動をめざす」という規定だ。

国民の過半数が反対している国葬への出席は「全ての市民に共感される運動」に反しているが、それ以上にこだわるのは、今も尾を引く現場の「勤労者」からの「働き方改革」への疑問と鬱屈だという。

例えば、派遣労働は無期雇用を原則とする考え方から、原則、最長3年までと期限が決まっていたが、専門的な業務として定められたものについては何年も契約を更新して働くことが可能だった。

ところが、安倍政権下で行われた2015年の労働者派遣法改正では、「労働者を派遣として利用し続けることを防ぐため」として、業種に関係なく、同一組織で働けるのは3年までとなり、専門業務の派遣労働者として同じ派遣先で長く働き続けていた人々が契約を打ち切られる事態も相次いだ。

改定案は、そんな派遣労働者たちの強い反対運動に阻まれ、法案に書かれた施行日がきても通らず、審議中に施行日を延ばす修正まで行って成立した経緯がある。採決の際、傍聴席で「派遣の声を聞いてください」と泣き崩れた派遣労働者の姿は広く報道された。

また、一定の労働者を労働基準法の労働時間規制対象から外す制度は「残業代ゼロ労働制度」と批判され、過労死の温床として労働側の強い抵抗にあってきた。「働き方改革」の中では、これも「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)と改名して導入された。

審議中の2018年5月、「全国過労死を考える家族の会」は、過労死を増やす恐れがあるとして当時の安倍首相に面会を申し込み、拒否されている。

同一労働同一賃金には「換骨奪胎」という批判も

「安倍政治による国論二分」の例として語られる「安保法制」に比べ、「働き方改革」はその成功例とされることも少なくないが、それは上記のような派遣法改正や「高プロ」への強い批判を押し切ったものでもあった。にもかかわらず「前進もあった」という空気を作り出したのは、「残業時間の上限規制」と「同一労働同一賃金」の導入だ。

ただ、残業の上限規制も「青天井だった残業時間に一定のふたをかぶせた」とされる一方で、過労死基準レベルすれすれの労働時間までの残業を容認することになった。

「同一労働同一賃金」では、「パート・有期雇用労働法」に通常の労働者とパート・有期労働者の間の不合理な賃金格差の禁止などが明記された一方で、転勤・異動の範囲や「その他事情」によっては同一労働でも同一賃金でない場合が容認されうる、という条件が入った。

その結果、家族がいて転勤がしにくいパートなど、非正規の約7割を占める女性には不利になり、換骨奪胎という批判も根強い。

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