中台の緊張激化の中、中国抑止をどう考えるのか 中国の台湾政策変遷の背景にある3つの変化

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そして3つ目の変化が台湾の人々の意識だ。かつて台湾では、中国との統一について賛否が割れていた。ところが経済が発展し政治制度の民主化が進むと、共産主義中国との統一を支持する声が減っていき、現状維持を望む声が強まった。1990年代以降、台湾には台湾独自の文化や制度があるという「台湾アイデンティティー」という言葉が広がった。

さらに習近平がウイグルや香港で強引な政策を実行し、中国政府がこれまで掲げてきた「一国二制度」が空中分解すると、台湾の各種世論調査では過半数が台湾の独立を支持するようになってきた。一度、民主主義の自由を知れば、個人の言動が厳しく監視され規制される中国本土との統一など望む人はいないだろう。もちろん中国にとってこの変化を黙って見逃すことはできない。さまざまな手段で圧力をかけているしかないのだ。

中国の軍事行動を抑制するにはどうすべきか

3つの変化は、中国が掲げる台湾の統一をますます困難にしている。だからと言ってただちに軍事侵攻というわけにはいかない。ロシアのウクライナ侵攻が示すように、力による現状変更は軍事的にも経済的にも中国をいっそうの困難に陥れる可能性が高い。

前アメリカインド太平洋軍司令官のフィリップ・デービッドソンが「今後6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と発言したことなどをきっかけに、軍事専門家の間では、中国の軍事侵攻と米中戦争の可能性が盛んに議論されている。その多くが軍事面での戦力や作戦の分析だ。こうした議論を受けて日本国内では、いざというときに備えた防衛力強化とそのために必要な防衛予算の大幅な増額が既定路線となっている。

確かに中国が台湾問題で何らかの軍事行動に出る可能性は高まっている。したがって日本を含む関係国が中国の誤った行動を抑えるために一定の抑止力を持つことは必要なことだ。しかし、抑止力の本来の目的は、相手国の軍事行動を押しとどめ、外交による問題解決を可能にすることにある。

また中国の台湾政策の変遷や習近平の対応を分析すれば、盤石といわれる習近平体制の強硬姿勢の背景にある政治的脆弱性が浮かんでくる。軍事的衝突を回避するためにも、多角的分析や思考を踏まえた解決の道を探っていかなければならない。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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