中台の緊張激化の中、中国抑止をどう考えるのか 中国の台湾政策変遷の背景にある3つの変化
江沢民のあとを継いだ胡錦涛(同2002~2012年)は力のない指導者だったと評されているが、台湾問題への対応は理にかなっていた。強引な手法は逆に台湾の人々の心を遠ざけてしまうことを知る胡錦涛は、統一という言葉を避けて「平和的発展」を打ち出した。さらに独立に走ろうとする陳水扁とそれをよしとしないアメリカとの隙間をつく巧みな外交でアメリカを味方につけた。その結果、陳水扁は自滅し中国寄りの馬英九・国民党政権が誕生し中台関係は一気に改善した。中台の良好な関係はこの時代がピークだった。
習近平(同2012年~)が主席になると状況は大きく変わった。国際社会で評価を得た胡錦涛だが、中国共産党内では「中台関係が改善しても、統一の話は一歩も進まず何の成果もない」などと批判が強かった。
鄧小平や胡錦涛に批判的と言われる習近平は台湾政策をガラッと変えてしまい、「この問題を一代一代先送りはできない」と統一を急ぐ姿勢を前面に出した。一方の台湾でも総統が独立志向の強い民進党の蔡英文に交代した。習近平のかたくなな姿勢は今年8月に公表された「台湾統一白書」にも表れた。過去の白書にあった「統一後に駐留軍や行政官を派遣しない」という文言が消えたのだ。香港の現状が示すように習近平にとって「一国二制度」はもはや意味のない構想なのだ。
習近平とアメリカの不安、台湾の自尊心
習近平が統一を急ぐ理由は何か。
よく指摘されるのは政治的レガシーの欠如だ。毛沢東は国を作り、鄧小平は経済大国を作った。これに対し習近平は権力を握って10年たつが大きな成果がない。異例の3期目に入ればさらに焦るだろうというのだ。
それ以上に自らの権力維持や共産党の一党支配の維持への不安もあるだろう。鄧小平に始まる改革開放路線によって中国経済は成長を続け国民を豊かにしてきた。そのことが権力者に正統性を与えてきた。ところが成長のスピードが落ち、所得格差などさまざまな社会問題が顕在化してきた今、習近平や共産党の権力維持の正統性が揺らぎかねない状況となりつつある。そうした不安が習近平を焦らせているのかもしれない。
2つ目の変化はアメリカだ。1970年代のニクソン政権、続くカーター政権による国交正常化以後、アメリカは経済が発展すれば中国は民主化すると考え、中国に対する関与政策を続けてきた。しかし、現実は逆方向に進んだ。トランプ政権はそれまでの政策が誤りだったと判断し対中政策を180度転換した。その対中強硬政策はバイデン政権になっても継承されている。あらゆる政策で激しく対立する民主党と共和党が、中国問題については強硬論で一致しているのだ。
だからと言って全面的に対立するつもりはなく、経済関係などは活発に行われている。しかし、胡錦涛時代のように米中が手を取って台湾の独立派を抑えるというようなことはありえないだろう。
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