絶好調の水産大手、問われる「高騰後」のシナリオ マルハ、ニッスイ、極洋は海外や養殖に本腰

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最大手のマルハニチロは着々と布石を打つ。直近でも5月末にイギリスで水産加工品を販売するノースコーストシーフーズ社を買収。さらに6月にはイタリア市場での水産物販売強化に向けて、同国に合弁会社を設立した。

ライバルの日本水産も中期経営計画で海外の強化を掲げる。2024年度には海外の売上比率を38%程度(2021年度は34%)にまで広げ、2030年度には50%にまで拡大する構えだ。浜田晋吾社長も「(成長に向け)欧米を中心に積極的な投資やM&Aが必要になる」と意欲的だ。

魚価高で消費が減退する恐れも(撮影:尾形文繁)

国内が主戦場である水産卸各社も、販路拡充に向けた一手を繰り出す。

従来、仲卸などを対象とした市場内流通がメインであったが、大手の量販店や外食チェーンなどと直接取引を行う市場外流通にも本腰を入れる。中央魚類や横浜の水産卸大手・横浜丸魚(8045)などのように、ECサイトでの直販に着手する企業も出てきた。

養殖は相場が比較的安定

ここから成長を描くうえでは、相場に業績を左右されにくい体制づくりも肝心だ。天然ものに比べれば相場が安定しており、水産資源の持続性の観点からも優位性をもつ「養殖」に注目が集まっており、総合大手を中心にさまざまな取り組みが行われている。

マルハニチロは三菱商事(8058)と合弁で、サーモンの陸上養殖を手がける事業会社を10月メドに立ち上げる。総事業費は約110億円であり、富山県で陸上養殖施設を建設し、2027年度の初出荷を目指す。

手を組む相手先は商社だけにとどまらない。極洋は微細藻類の培養を手がけるベンチャー企業のイービス藻類産業研究所に出資を行う。同社の微細藻類「ナンノクロロプシス」配合の餌を与えた魚は自然免疫力が高まることが確認されており、極洋が手がけるクロマグロやマダイなどへの養殖飼料としての活用に期待できる。さらに、「微細藻類は太陽光やCO2で育つ。イワシなどを原料とした飼料と比べて持続可能性が高い」(IR担当者)。

このように、『会社四季報』では各社の取り組みや業績の動向について取材している。足元では魚介類だけでなく、さまざまな食材が高騰しており、各種エネルギー相場も乱高下している状況だ。こうした激動の時代において、各社がどのような舵取りを行うのか。ぜひ、『会社四季報』2022年4集(秋号)を手に取ってご確認いただきたい。

中尾 謙介 東洋経済 記者

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なかお・けんすけ

1998年大阪府生まれ。現在は「会社四季報」編集部に在籍しつつ水産業界を担当。辛い四季報校了を終えた後に食べる「すし」が世界で1番美味しい。好きなネタはウニとカワハギ。

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