ずさんな避難計画で原発再稼働に進む日本の現実 「実効性」を検証できないという落とし穴
原発避難計画の焦点は、事故が起きた際に本当に遂行できるかという「実効性」の有無にあるとされる。防災対象範囲を30キロ圏まで拡大したことで、対象人数も一つの原発で数十万人規模になり、避難先の確保、交通手段、費用や物資……と課題も格段に増加した。
だが、避難計画は安全審査の対象外だ。国の原子力防災会議(議長=首相)で了承を受ける仕組みになっているが、これは原発の安全審査と違って1回の会議で終わる手続きに過ぎない。つまり国は避難計画の実効性を厳密に検証していないと言わざるを得ない。
そもそも事故やトラブルに備えた計画の実効性を確かめるには、訓練の繰り返しによって課題を一つひとつ洗い出し、改善策を講じていくのが一般的だ。だが、原発避難計画は対象人数が数十万人に上るため、現実に即した訓練を行うのは難しい。
実効性が「ある」と確認するのは難しいのだから、逆に言えば、実効性が「ない」と、つまり計画が「机上の空論」「絵に描いた餅」であることを立証するのも難しいということになる。
そうすると、計画の中身一つひとつについて、どのような根拠があるのか、いつどこで誰が決めたのか、策定プロセスを検証する以外に、計画の実効性や信頼性を確かめる方法はない。だが原発避難計画の策定プロセスはほとんど明らかにされていなかった。
隠された策定プロセス
避難計画に高い関心が寄せられているのが日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)だ。全国の原発で最も首都圏に近く、30キロ圏内の人口も最多の約94万人に上る。果たして実効性がある計画を本当に策定できるのか疑問を抱いている人は多かったが、私が2021年に毎日新聞紙上で報道するまで、策定プロセスを明らかにする報道はほぼなかった。
2021年3月、周辺住民が原発の運転差し止めを求めた民事訴訟で、水戸地裁は避難計画の不備を理由に原告勝訴の判決を下した。だが判決文を読むと、30キロ圏内14市町村のうち策定済みが5市町にとどまることや、地震などとの複合災害による代替経路の確保といった課題が数多く残されていることを理由にしており、避難計画の策定プロセスを審理したわけではなかった。
公表されている情報を調べたところ、明らかになっていない策定プロセスの一端が顔をのぞかせたことが計3回あった。
1回目は2014年8月6日、茨城県庁で開かれた橋本昌(まさる)前知事の定例記者会見のことだ。橋本前知事はこう発言した。
「我々も、公共施設など、県立あるいは市町村のものも含めて相当洗い出し、(当時96万人のうち)44万人しか(茨城)県内では引き受けられないということになったため、52万人をほかの県にお願いしなくてはいけない。
今までの例を見ると、公的な避難場所をセットしたときに、そちらに避難される方々は6~7割ぐらいなので、1人2平方メートルという計算をしているけれども、ある程度の体制はとっていけると考えている」
明文化されていなかったが、公立学校など避難所の面積を基に「1人あたり2平方メートル」で収容人数を算定し、それに収まる避難者数を機械的に割り当てるという策定の実態が垣間見えた。
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