ずさんな避難計画で原発再稼働に進む日本の現実 「実効性」を検証できないという落とし穴

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2回目は2016年3月28日、再び橋本前知事の定例記者会見でのことだ。橋本前知事は約1年半前の発表内容を一部修正し、茨城県内の受け入れ分を約4万人減らして40万人とし、県外分を56万人に増やす方針を明らかにした。これは「避難所の面積÷2(平方メートル)」で算定した収容人数ギリギリまで避難者数を割り当てる実態を示唆していた。

「県内40万人、県外56万人(その後54万人)」の大枠が固まったのを受け、2016年度以降、30キロ圏内の避難元市町村と30キロ圏外の避難先市町村との直接交渉が進み、事故時の避難者の受け入れ、避難元から見ると避難先の確保を約束する「避難協定」が締結されていった。

こうした避難協定は2018年12月、水戸市と埼玉県内11市町の締結ですべて終了した。最終的な避難先は茨城県内(30市町村)と福島・栃木・群馬・埼玉・千葉の6県131市町村に及んだ。そして、30キロ圏内14市町村のうち5市町(笠間市、常陸太田市、常陸大宮市、鉾田市、大子町=いずれも茨城県内)が避難計画を策定した。

3回目は避難協定の締結がすべて終了する直前、2018年9月の茨城県議会だった。県議の一人がこの年の7月に実施された東海村から取手市への避難訓練で明らかになったある「矛盾」を取り上げた。

「取手市はトイレや倉庫を除いていない(面積に基づく収容)人数になっている。取手市に2万3500人の東海村民が逃げるという計画は成り立たない」

一般的な学校体育館でアリーナなど避難に使えるスペースは総面積の7~8割とされる。トイレや倉庫など使えないスペースを含む総面積を基にはじき出すと、収容人数は過大算定になる。橋本前知事が示唆したように、1人2平方メートルの基準で収容人数ギリギリまで避難者を割り当てているとすれば、過大算定を是正すると避難所不足が生じることになる。避難計画の実効性を根底から揺るがす指摘と言えた。

これに対して、茨城県の大井川和彦知事と担当の原子力安全対策課長は「再確認」を約束したが、なぜこんな問題が生じたのか、過大算定は取手市だけなのか、原因や実態は明らかにしていなかった。

2021年4月9日、茨城県の大井川和彦知事

非公表の面積調査

2020年5月末に避難計画の取材を始めた時点で、県議会での指摘から2年近くが経っていたが、「再確認」の結果はおろか、実施したかさえ明らかになっていなかった。私の取材に対して、原対課の担当者は「電話で聞き取りしただけで報告書のようなものはない」「問題ないという報告だけは口頭で受けた」と、中身のない答えを繰り返すばかりで、ついには私の電話や面会の取材には応じないという「取材拒否」を通告してきた。

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