ずさんな避難計画で原発再稼働に進む日本の現実 「実効性」を検証できないという落とし穴

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知事が県議会で約束したのに実施しなかったとは考えにくい。また「再」確認なのだから、それ以前にも収容人数を算定する面積調査を行ったものと推察された。県が取材に答えないため、調査照会を受けたと思われる30キロ圏外の市町村に問い合わせた。県への遠慮もあってだろう、「記録が残っていない」「県に聞いてほしい」とはっきり答えない市町村も多かったが、地道な取材を繰り返した結果、県が2回にわたり避難所の面積調査を非公開で実施していたことが判明した。

1回目は新規制基準が施行された直後の2013年8月。茨城県は30キロ圏外の市町村に避難所の面積を照会した。避難所の主力と見込まれているのは公立学校だったが、原発避難は滞在が長期化する恐れがあり、学業に支障が出るため教室は使わず、体育館を中心に使う予定になっていた。市町村から回答があった体育館の面積を単純に2で割って収容(可能)人数をはじき出し、県原対課が収容人数と避難人数を照らし合わせて避難先市町村を避難元市町村に割り振った。この作業は関係者の間で「マッチング」と呼ばれている。

形ばかりの過大算定

2回目は2018年10月。県議会で取手市の過大算定が指摘された翌月のことだった。茨城県は県内全44市町村に対して、1回目と同様に体育館などの避難所面積を文書で照会した。

だが、再調査に至った経緯や理由の詳しい説明はなく、避難に使える居住スペースとトイレや倉庫などの非居住スペースを分類する模式図が添付されていただけで、過大算定を是正する趣旨は明文化されていなかった。2回にわたる面積調査の結果など、策定の基礎資料を茨城県や内閣府に情報公開請求するとともに、市町村への取材を続けた。

2020年11月、県原対課が2回目の面積調査結果をまとめた非公開の一覧表を独自に入手した。これによると、茨城県内の避難先(30キロ圏外)30市町村のうち、8市町で計約1・8万人分の避難所不足が生じていた。

だが、避難協定の締結を発表して避難先の確保はアピールしていた一方、再調査で過大算定を是正した結果生じた避難所不足は一度も公表していない。仮に水面下で避難所を追加したとしても、公表していない以上、当該の施設に伝えることもできず、どこまで現実的に受け入れを想定できるかは疑問だ。形ばかりの過大算定を是正しただけで放置している疑いが浮かんだ。

茨城県が2018年に実施した避難所面積の再調査で、市町村に宛てた照会文に添付されていた体育館の居住スペースと非居住スペースを分ける説明書
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