ずさんな避難計画で原発再稼働に進む日本の現実 「実効性」を検証できないという落とし穴

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UPZのためあらかじめ確保した避難先の融通などどこにも明文化されていない。常識的に考えて、いざ事故が起きた後になって避難先を突然変更するなどできるはずがないし、もし事態が悪化して避難エリアが拡大した際に、当初予定していた避難先が別の地域からの避難者で既に埋まっていれば混乱は避けられない。

このような重大な運用が担当者による口頭の説明だけで保証できるはずがない。議事録に残されていた発言は担当者の個人的な「勇み足」なのだろうか、それとも避難計画の策定を容易にするためハードルを下げたい国の「真意」の表れなのだろうか。

内閣府に見解を問わなければならない。前者であれば、内閣府は担当者の発言を重く見て対応するだろう。もし後者だとすれば、担当者は真意に沿って発言しただけなのだから、うやむやな説明でやり過ごそうとするだろう。内閣府から返ってきた答えは以下の通りだ。

「指摘の発言はさまざまな対応を議論する過程のものであり、妥当なのかは評価しない。茨城県の対応にどうつながったかはわからないが、避難所の確保にあたっては、十分な対応ではなかったという認識の下、現在は関係自治体と協力して避難所スペースの適正化に取り組んでいる」

フクシマの教訓を経て

何とも白々しい答えだ。国から「避難先は融通できる」と言われて、自治体が真剣に避難先を確保するはずがない。はっきり言えば、「杜撰で構わない」という国のお墨付きがあるから、数字の辻褄さえ合わない無様な避難計画が出来上がっているのだ。それがバレたからと言って、今度はしっかりやりますと言われて誰が信じるだろう。当然ながら、避難者を受け入れる予定になっていた栃木、千葉、埼玉、群馬の各県内でも収容人数を過大算定していた自治体が相次いで見つかった。

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フクシマの教訓によって避難計画がなければ再稼働ができない仕組みになった。だが役所は再稼働をスムーズに進めるため、官僚の作文と策定プロセスの隠蔽によってフクシマの教訓を矮小化し、虚構の実効性をまとった避難計画を次々と作り上げている。

誰もが「机上の空論」「絵に描いた餅」であると薄々わかっているが、実効性が「ない」ことを立証するのは極めて難しいため、見過ごすしかなかったのだ。

日本の原発行政は何一つ変わっていない。こんなハリボテの安全規制と避難計画が頼みの再稼働など認められるはずがない。

日野 行介 ジャーナリスト・作家

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ひの こうすけ / Kousuke Hino

1975年生まれ。元毎日新聞記者。

社会部や特別報道部で福島第一原発事故の被災者政策や、原発再稼働をめぐる安全規制や避難計画の実相を暴く調査報道に従事。

『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』(集英社新書)、『調査報道記者 国策の闇を暴く仕事』(明石書店)、『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』(いずれも岩波新書) 、『原発棄民 フクシマ5年後の真実』(毎日新聞出版)等著書多数。新著に『双葉町 不屈の将 井戸川克隆』(平凡社)。

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