ずさんな避難計画で原発再稼働に進む日本の現実 「実効性」を検証できないという落とし穴

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2011年3月、福島第一原発事故で日本の原発は終焉を迎えたかに見えた。
大津波の襲来という知見が事前にあったにもかかわらず、規制当局は運転継続を黙認して過酷事故が発生。安全神話に依存していたため防災体制はないに等しく、住民避難は混乱を極めた。
そして国内の原発はすべて停止し、「原子力ムラ」は沈黙した。国民は学んだはずだった。
だが、「懺悔の時間」はあっという間に終わった。あれから10年以上が経ち、ハリボテの安全規制と避難計画を看板に、「電力不足」キャンペーンのもと進められる原発再稼働。その実態を、丹念な調査報道で告発した『原発再稼働 葬られた過酷事故の教訓』著者による最新リポート。今回は後編。
*部署名・肩書は取材当時のものです。
*初出:集英社新書プラス

「実効性」を検証できない避難計画

東京電力福島第一原発事故後の2012年9月に発足した原子力規制委員会は、原発再稼働のために越えるべき二つのハードルを策定した。それが「新規制基準」と「原子力災害対策指針」(防災指針)だ。

このうち防災指針は事故発生に備えて、あらかじめ取っておく被曝対策を定めるもので、原発の周辺地域ごとに策定される「避難計画」がその中核となる。

フクシマ以前は「事故は起きない」という安全神話に依存して、避難計画はまともに作られていなかった。新たな防災指針では避難計画を策定する対象地域を原発30キロ圏まで拡大した(フクシマ以前は8~10キロ圏)。

事故発生時にはPAZ(5キロ圏内)の住民がまず避難し、UPZ(5~30キロ圏内)の住民は屋内退避を経て、一定の放射線量(毎時20マイクロシーベルト)を超えたら、あらかじめ確保している避難先に向けて避難を始めるとした。事故は起きないとする安全神話への依存から脱却し、事故が起き得る前提に方針を転換したようにも見える。

ところで、安全審査では電力会社が申請するのに対して、後者では30キロ圏内の自治体が避難計画を策定する。これは自治体が住民救助の責任を担う自然災害の法制度を原発災害に広げた格好だが、電力会社が利益を得る原発のためになぜ自治体が大きな手間をかけなければならないのか、と釈然としない。

そのため、原発の安全設備と同じ防護措置でありながら、自治体が策定した避難計画は安全審査の対象外であり、規制委はタッチせず、内閣府原子力防災担当が自治体の策定を「支援」する枠組みになっている。

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