百貨店の復調を支える「高額品バブル」の持続力 好調でも利益率が高くない商品ばかりという悩みも

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外出機会の増加に伴い、オンワードホールディングスや三陽商会など百貨店アパレル大手の売上高は回復傾向だ。ただ、通勤着のカジュアル化などを受けて、コロナ禍前の売り上げ水準まで戻ることは難しいというのが業界共通の認識でもある。こうした百貨店の収益構造の変化に対して、有効な手だてはないのが実情だ。

そこで百貨店各社は利益の「率」よりも「額」の確保に軸足を移し、衣料品売り場を減らして高級ブランドや宝飾・時計などの売り場を拡大する動きを加速させている。

松坂屋名古屋のサイト
松坂屋名古屋店は時計売り場を大幅に拡大。写真は松坂屋名古屋店のホームページ(編集部撮影)

大丸松坂屋百貨店の主力店舗である松坂屋名古屋店では、2022年7月に高級時計売り場を従来比で倍増させる大規模改装を実施した。

とくに人気の「ロレックス」では店舗面積を3倍に広げた。大丸松坂屋百貨店では、婦人服や紳士服などの衣料品の売り場面積を大幅に削減しており、高額品を扱う売り場への転換を進めている。

ほかにも、三越日本橋本店では8月に世界中の希少な時計を集めた催事を開催するなど、とくに資産性の高さに注目が集まる時計売り場の動きが活発だ。

高額消費が「失速」するおそれ

ただ、直近の売り上げ回復のエンジンとなってきた高額品消費も、勢いが今後も持続するかについて業界内の見方は割れている。

欧米各国を中心に渡航規制が緩和され、日本国内の富裕層がこぞって海外旅行に出かける時期は近づいている。旅行需要が復調していけば高価な服やカバンなどを購入するため、百貨店にとっては朗報だという声もある。

一方、「コロナ禍で追い風が吹いていたのは確か。高額品消費の伸び率が一気にマイナスになるとは思わないが、徐々に鈍化していくだろう」と見る業界関係者も少なくない。コロナが落ち着けば、海外旅行にも行けるようになり、富裕層のお金の使い道も買い物中心ではなくなる可能性があるからだ。

足元は、政府が訪日外国人の受け入れ上限数を撤廃する検討に入るなどインバウンド復活に向けた機運が高まりつつある。とはいえ、かつて百貨店免税売上高の8割程度を占めた中国は厳格なゼロコロナ政策を続けているため当面は期待できない。頼みの綱である国内の高額品消費が失速すれば、百貨店各社が進める「富裕層シフト」にも影響が出かねない。

岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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