キリン「高単価ビール苦戦」で早くも迎えた正念場 初年度目標割れでプレミアム化戦略に黄信号
キリンビールは、すでに一定のボリュームのある一番搾りなどのコアブランドに、高価格帯ビールのスプリングバレーを新たな成長エンジンとして育て上げていく意向だ。
スプリングバレーは高価格ゆえに、ほかの商品と比べて粗利が高く、成長すれば得られる果実も大きい。ただ、足元ではこうした目論見が成就しているとは言えない。
2021年の販売開始時、「豊潤」の年間の目標販売数量は160万ケースだったが、140万ケースにとどまったのだ。50円ほど価格差があるため単純比較はできないが、アサヒビールが2021年に発売した「アサヒ生ビール(通称マルエフ)」は販売好調で、2022年の販売目標は630万ケースと、2021年の実績である200万ケースから大幅な伸長を見込む。
ブランド認知度と取扱数に課題
キリンビールでスプリングバレーのブランドマネージャーを務める間木研吾氏は「昨年と今年の目標数値はチャレンジングなものだ。過去、当社でこれほど(CMや販売数量などが)大きな規模になった高価格商品はない。(外部調査をもとに推計すると)約900万人が飲用しており、クラフトビールが今後拡大するための足がかりも作ることができた」と胸を張る。
ただ、2022年1~6月の販売数量は前年同期比2.5%減(実数非公表)。鳴り物入りで登場しただけに、物足りなさが目立つ。8月に行われた中間決算説明会でもは「プレミアム化戦略が足踏み状態のように見える」と、スプリングバレーを中心とした高単価戦略の成功を危ぶむ声が出た。
期待されて市場投入されたにもかかわらず、販売初年度から目標割れし、いきなり正念場を迎えたスプリングバレー。その課題は「ブランド認知度」と「商品取扱数」だ。目標未達の背景について、間木氏は「ブランドが立ち上がったばかりで認知率が低かった。試しに飲んでみるという体験を作るチャレンジが足りなかった」と分析する。
新商品を習慣化してもらうには、新規顧客にまずは飲んでもらうことが欠かせない。ただ、スプリングバレーは値段が高く、その一歩を踏み出しにくい。「おいしさには自信を持っている」(間木氏)と話すが、おいしさを訴求するのは他社も同様だ。高い値段なりの価値がどれだけあるのか、消費者が理解しなければ購入者は増えない。
9月10~11日には、スプリングバレーのおいしさや料理とのペアリングを体験するリアルイベントを開催し、700人以上が参加した。今後もイベントなどを通じて認知度向上に積極的に取り組む方針だ。
ただ、スプリングバレーを取り扱う店舗や商品棚の数は「(基幹ブランドの)一番搾りに比べ明らかに差が大きい」(同)という。いくら認知度が上がったとしても、商品が店舗に置かれていなければ購入できず本末転倒だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら