知られざる日本の暗部「子の死因検証」が進まぬ訳 なくならない保育事故、遺族が「CDR」に望むこと

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えみさんらの活動もあって、事故に関する保育行政は全国レベルで姿を変えてきた。

2015年6月には保育施設での死亡・大けがなど重大事故の情報を集めたデータベースの公開が始まり、2016年には重大事故の際に自治体や施設がどう対応すべきかをまとめたガイドラインが出された。また、重大事故が起きた場合、施設側に報告書の提出を義務づける仕組みもスタートした。

そうした積み重ねは着実に実を結び、数字となって現れている。

内閣府の調査によると、寛也君が亡くなった2010年に全国で起きた保育施設での死亡事故は13件で、その後も毎年十数件を数えていた。しかし、2013年の19件をピークに減少に転じ、2017年からは1桁が続いている。

「事故に対する社会の見方が変わったと思うんです。今はすぐ報道もされ、事故を葬り去ることができません」とえみさんは言う。

子どもの事故に関する情報が一元化されていない現状

寛也君が他界した際には、事故直後の調査がなされなかった。事故の真相究明が進まない状況が、どれほど親を苦しめるか。そのつらさが身に染みているえみさんは、チャイルド・デス・レビュー(CDR)が迅速に、丹念に進むことを切望している。

CDRでは、医療や福祉、教育、警察といった関係機関が「子どもの命を守る」という一点を目標にして縦割り行政を排して連携する、日本では初めての試みだ。事故の原因を徹底的に検証し、再発防止策をつくり、実践していく。

現行の制度では、交通事故なら警察、保育事故は厚生労働省といったように情報がばらばらに集約され、子どもの事故に関する情報が一元化されていない。その壁を乗り越えて多機関が手を結ぶことに眼目がある。

「(わが子の死亡事故では)直後の調査がなく、本当のところがなかなかわからなかった。だけど、専門家による第三者委員会の検証で見解が出て、子どもの名誉回復になり、私も前を向いて生きていくことにつながりました。CDRも再発防止のためだけでなく、遺族が前を向いて生きていくためにも必要だと思うんです」

事故の原因を小さな子どもの行為に求めるのではなく、事故を多角的に検証し、子どもの名誉回復を図るという観点も重要だと、えみさんは訴えているのだ。同時に、遺族の立ち直りのためにもCDRはプラスに働くだろうと考えている。

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