知られざる日本の暗部「子の死因検証」が進まぬ訳 なくならない保育事故、遺族が「CDR」に望むこと

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寛也君が亡くなった直後、病院に来た警察官に事情を聴かれた。解剖をするかどうかも問われた。解剖は断ったが、小さな子を育てる穏やかな生活の中に、警察が関わることなどなかった。えみさんは振り返る。

「これは普通のことじゃない、何かしなきゃいけないって思いましたね」

事故直後、園側からは「適切に見守りを行っていた」という大雑把な説明を受けてはいたものの、葬儀の後で問い合わせると、園は事故の経緯さえ確認していなかったことが判明した。数日後、夫と共に園に出向くと、園長や担当の保育士、市役所の職員らが待っていた。差し出された事故顛末書には、次のように記されていた。

「昼寝から目覚めておやつを食べている間、担当保育士はずっと横についていた」

「担当保育士がお茶を飲ませなかったのが窒息の原因」

さらに、今後については園児に食べさせるとき「お茶を飲ませる」「かみかみごっくんしようねって声をかける」としか書かれていなかった。

「人が亡くなっているのに、これだけしか出てこないのかと思いましたね。子どもの側に原因があるとされているように感じてしまって、すごく嫌だなって」

大人が付いていながら、なぜわが子の容態が急変したのか。その肝心な点がわからない。えみさんは「寛也に何が起きたのか知りたい」と、保育士たちから事故時の状況を聴き取っていく。すると、園側のずさんな運営体制が見えてきた。

当初の説明と異なる事実が判明

まず事故当時、保護者の知らぬ間に、在籍していたゼロ歳児クラスから1歳児クラスに移されていた。事故の直前、ゼロ歳児の預かりが増えたため、部屋が手狭になり、異年齢の子ども計26人を1つの部屋で保育していたという。

おやつは、カステラだけでなく、その前にラムネも食べていたことがわかった。1円玉を7枚重ねたくらいの大きさ。ラムネは家でも食べさせたことがない。

園側による当初の説明は、ほかにも事実と異なる点がある。大きな問題は、寛也君のそばに付いていたとされる保育士が、事故の時には短時間、離れていたことだ。「適切に見守りを行っていた」という説明と明らかに食い違う。当該の保育士は、当時の状況を覚えていなかったが、周囲にいた保育士はその保育士をかばい、事実関係を伏せていたという。

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