ロシア・ウクライナ戦争が世界に刻みつけた教訓 過去の常識が通用しなくなり秩序の再構築が必要

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このような状況では、とある時点で紛争終結を求める声が出てくる。そうなると、現状が固定され、戦争が事実上ロシアの勝利で終わることになる。土地をめぐる戦争では、占拠して既成事実を作ったほうの立場が強くなる。

しかし、ここでロシアが成功するとなると、国際社会がロシアに向ける警戒は、21世紀の後半以降にまで続くことになる。

ウクライナの反撃に学ぶ

ウクライナがロシアの初期の攻撃に耐え、政権崩壊を食い止め、戦線の膠着状態を作り出せたことは、国際社会に大きな教訓を残すものとなった。もちろんそこにウクライナの決定的な勝利は存在しない。しかし、当初亡命を勧められたともされるゼレンスキー政権が、政権内の親ロ勢力を摘発してまでもロシアとの対決で国論を統一したことは、国際社会を大いに驚かせた。

ウクライナの反撃にはいくつか注目点がある。まず、クロスドメイン作戦の一部とされる、社会や人間の認知領域における戦いが重要な意味を持つということである。ロシアのこの作戦としては、2014年のクリミア併合における「ハイブリッド戦争」が有名である。

ウクライナ戦争では、ロシアとウクライナ双方が、サイバー領域を活用した「心理戦」などを積極的に活用した。さらに、情報通信技術の活用による敵勢力の情勢把握などでは、ウクライナ側は約30万人とされる「IT軍」に加え、民間人によるSNS等への情報発信が、ウクライナの抵抗活動を支えたといわれている。

さらに、認知戦により、ウクライナは国際世論の形成に成功した。ウクライナによる戦術的な情報発信や、民間人による自発的な情報拡散により、ブチャなどでのロシア軍の残虐行為や、民間施設に対するロシアの攻撃などが効果的に発信された。

国際法の重大な違反を疑われるロシア軍の行為は、国際社会におけるロシアの立場を極めて悪くした。ロシアは国際規範の不遵守に対する説明責任を負わされた。ただ、NATO側にすると、これは戦争の終わり方を難しくした。

この問題は、世界史的な意味がある。20世紀は戦争の違法化が進んだ世紀である。ロシアの「特殊軍事作戦」が、個別的自衛権の行使でなければ、侵略と規定されることになる。そして国際法秩序のもとで、不正義に対する国家および個人の責任を曖昧にした状態での停戦や終戦は、正当化しにくい。

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