辻仁成「息子と2人で過ごしたクリスマス・イブ」 小学生が大学生になるまで父子の心の旅の記録

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クリスマスケーキのことを「ブッシュ・ド・ノエル」と呼ぶ。でかいカマボコのような形のケーキだけど、これが結構高い。5000円くらいかな。みんな予約をするから、どこも前もって作って冷凍しておくのだそうだ。四軒ケーキ屋を回って、やっと手頃でいいのを見つけた。それから肉屋に行き、一から作るのは面倒くさいので、親しい店主に何かクリスマスっぽい肉を、と依頼した。「今は忙しいから昼過ぎに取りに来い、何か作っとく」とウインクされた。

一度家に帰り、夕方、再び取りに出かけた。店主のロジェがホロホロ鷄(パンタード)の腹の中にいろいろと詰め込んだ一羽を差し出した。この店主、首相官邸にも出入りしていたらしい。でかいホロホロ鷄一羽だ。内臓を取り出し、そこにファルス(詰め物)を詰め込んでいる。食べきれないと思ったが、フランス人は食べきれなかった料理をクリスマスにつまむのが習慣らしい。日本のおせち的な感覚である。残ったら、カレーソースでもかけて食べればいいか、と思いながら、買った。

息子とともにクリスマスディナー

家に戻り、オーブン皿に処理したホロホロ鷄、エシャロット、栗、ジャガイモ、ハーブ(タイムとローリエ)を加え入れた。鷄の首の肉と砂肝と肝臓もついていたので、時間差でぶち込むことにした。首部分はグロテスクだけど、日本だと焼き鳥屋でみんな「うまいうまい」と言って食べているあの「せせり」のことである。水道管の蛇口のような形状をしていて、中に骨があるので、このままでは食べられない。せせりはどうやって成形しているんだろうと焼き鳥屋さんの苦心を想像しながら、骨から肉を削いだ。息子がマーシャルのスピーカーを持ってきて、オーブンの前に置いた。

「なんか、暗いからさ、音楽いらない?」

フランスの歌手が歌うクリスマスソングだった。

夜8時。テーブルセッティングをしてクリスマス・イヴの夕食をした。いつもと何も変わらないのだけど、ちょっといい皿を並べ、蠟燭台とか出して、雰囲気を作ってみた。オーブンで一時間半焼いたホロホロ鷄をどんと中央に置いた。

オーブンで焼いたホロホロ鳥。辻さんのInstagramより(©️Design Stories)

「どうすんの、こんなに?」と息子が鼻で笑った。

「ま、クリスマスだし、お前はいつかフランス人と結婚して、クリスマスを家族で祝うことになるだろ? こういうことを経験しておかないとその時、適応できなくなる」

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