ソ連東欧圏を崩壊させたゴルバチョフ氏の君主論 最後の書記長が残したウクライナ問題という火種
ゴルバチョフはアメリカに対し、世界に大きな影響を及ぼす原子力に対する協力を要求し、破壊的な原子爆弾の削減を世界全体にとっての緊急の課題とした。当時、東西は緊張関係にあった。アメリカはドイツにソ連に向けたミサイル設置を計画し、ソ連もそれに対抗するミサイルの設置を計画していた。それがここで大きく変化した。しかし、真面目に取り組んだのはアメリカではなくソ連であり、ゴルバチョフの考えはいささか甘いものであったといえる。
プーチンは、アメリカの映画監督オリバーストーンとの共著『オリバー・ストーン オン プーチン』(The Putin Interviews, 2018)の中で、ゴルバチョフのこの甘さについて言及している。プーチンはゴルバチョフの脇の甘さについて、彼が、アメリカとの合意についてしっかりと文書記録として残さなかった点を指摘している。プーチンは、これが現在ウクライナ問題を作り出した原因だと主張するのだ。プーチンは、ゴルバチョフとまったく違ったタイプの政治家だといえる。
現実主義的なプーチンと理想主義のゴルバチョフ
プーチンは戦後生まれできわめて現実主義的であり、そしてプラグマチックである。一方、ゴルバチョフは理想論に燃えるタイプだ。プーチンはあくまでも現実的な政策を好む。どんな状況であろうと自分のポジションを持ち、それにしたがって対処する。プーチンによると、ゴルバチョフは理想に燃え、自らのポジションを相手に合わせすぎたといえる。
マキャベリの言葉ではないが、政治家には敵と味方を明確にするポジションが必要だ。プーチンはちょうど当時のアメリカのレーガンのように、失われたロシアの誇りを今復興しようとしている人物だといえる。
レーガンの積極性と押しの強さは、理想主義者のゴルバチョフをこなごなにしたともいえる。アメリカは核ミサイル削減を交渉しながら、一方でスタウォーズ計画を展開して軍事費を増大していった。さらに、状況を見ながら、東欧ソ連へと触手を伸ばし、西ヨーロッパに限定されていたEUやNATO(北大西洋条約機構)を東欧、そしてソ連の領域にまで拡大していったのである。
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