SNSの「ウケる物語推し」が招く「怒り消費」依存症 旧石器時代と同じセンセーショナルな悪者探し

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そしてさらに、目先の利益に反してすら、自分(たち)の奉じる世界解釈(ストーリー)を他人にシェアさせようとする。そういう度しがたい癖が、人間にはある、とゴットシャルは言うのです。

たとえばふたつの国が歴史解釈で食い違い、互いに自分の史観が正しいと信じたがっているばあい、史観は史観でほっといて経済面でだけ交流すればいい、とはなかなかいきません。つい相手の史観を批判・修正しようとしてしまう。これは複数の集団・属性のあいだでよくあることです。

行動様式の基礎は狩猟採集生活のまま

地上に登場して600万〜700万年、人類はその時間のほとんどを、少人数の共同体に一生属し、狩猟採集生活を送ってきました。

小さな共同体を崩壊から守るために、不公平を検知し、仲間に貢献しないフリーライダーを告発し、悪者探しをする。そういうストーリーを生きた個体の子孫が、この600万年の狩猟採集生活を生き抜いたわけです。

そういうわけで、私たち人類の頭のなかに自動的に産出される物語が助長するのは、ゴットシャルの言うように、

・〈集団内の友好と集団外への敵意〉(本書180頁)
・〈陰謀物語という疑似宗教〉(129頁)
・〈道徳的な物語とゴシップへの依存症〉(164頁)
・〈報復ファンタジー〉(194頁)

といったものになります。

冷静な議論をすっ飛ばして、

「望ましくないできごとの原因には必ず悪いやつがいるから、そいつを取り除かなければならない」

とか、

「Aというできごとの前にBというできごとがあったのだから、BがAの原因である」

とか、そう決めつけること自体が、人間にとって「気持ちいい」状態なのです。

いまの私たちの行動様式という建物も、近代化で床は「公共性」「平和」「人権」「平等」「反差別」などの最新の建材を使っていますが、基礎部分は「悪者を見つけ、排除せよ」という狩猟採集生活仕様のままです。

なにしろ、共同体の巨大化をもたらした農耕や牧畜は、せいぜいこの9000年から1万年限定の話。大航海時代にいたってはわずか500年前。人間の行動様式の根幹がそこまで大きく変わるわけではありません。

人間という動物の行動様式には、グローバリズムは早すぎたのです。さらにここ20年は、ソーシャルメディアによって他者の世界解釈に触れる、いわばミーム拡散過剰といった状態になっています。

「怒り消費」の依存症

『ストーリーが世界を滅ぼす』を読むと気づかされるのですが、ソーシャルメディアが暴動を煽ったり、キャンセルカルチャーを発火させたりするとき、その導火線となるのは必ず、旧石器時代から変わらぬセンセーショナルな「悪者探し」のストーリーです。

圧制やホロコーストの世界史は、いわばヒーロー気取りの人間が、ストーリー内に必要な「悪者」にさまざまなレッテル(「異端者」「魔女」「反革命勢力」「劣等人種」「非国民」「修正主義者」「差別者」……)を貼ってきた歴史ということができます。

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