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SNSの「ウケる物語推し」が招く「怒り消費」依存症 旧石器時代と同じセンセーショナルな悪者探し

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さらに彼は続けます。

〈だがストーリーテラーを憎まないよう必死で努めよ。
そして平和とあなた自身の魂のために、物語にだまされている気の毒な輩を軽蔑するな。本人が悪いのではないのだから〉(266~267頁)

物語を憎んで人を憎まず。これは重要な助言です。なぜか。

〈物語にだまされている気の毒な輩を軽蔑〉したとたんに、ストーリーの思う壺、私たちは先述の「自分は知的で批判精神に富んでいる」という自己像を持ってしまい、自分のストーリーを批判的にチェックできなくなるからです。

これは仏教で言う「慢」(他人と比べて思い上がること)、とりわけ「増上慢」(悟っていないのに悟った気になること)という煩悩のタイプの、非常にわかりやすい例示となっていますね。

キャンセルされかねない「21世紀のトマス・モア」

21世紀のウェブ上では、陰謀論や魔女狩りが猖獗を極めています。陰謀論と魔女狩りを推し進めている人たちのなかには「人文学者」「社会学者」の肩書のある人たちも数多く含まれています。「文学を読んでも救われなかった人」たちです。

彼らは、人文学(humanities)のルーツであるルネサンス・初期近代西洋の人文主義者よりも、人文主義者トマス・モア(『ユートピア』の作者)を1535年に斬首した国王ヘンリー8世に似ています。

ゴットシャルの著作のベースである進化心理学は、ポリティカル・コレクトネスに傾いたアメリカの人文学ではけっして主流ではありません。むしろ「政治的に正しくない真実」を口にして、主流から批判されがちな立場です。おととしキャンセルされかけた認知心理学者スティーヴン・ピンカー(ここでもクリッツァーさんの記事にリンクしておきましょう)が本書をプッシュしていますが、じっさい下手をすればゴットシャル自身がキャンセルされかねない内容かもしれません。

一般向けの著作で、煽りの多い挑発的な文体で現状を分析した本書のポジションこそ、16世紀当時のモアやエラスムスといった人文主義者の立ち位置に相当するといえるのではないでしょうか。

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