Adoが音楽チャートを一気に占拠できた納得理由 「覆面シンガー」の向こう側にあるリアリティ

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2017年、中学2年生の時に「歌ってみた」動画を初めてアップして以来、直接民主制トーナメントを、圧倒的な歌声で勝ち上がってきたのが、Adoであり、また、同様のプロセスから、何人(組)かの「覆面シンガー」「覆面ユニット」がブレイクしている。

そう考えれば、「覆面」かどうかなんて、とても些末な事柄に見えてくるだろう。そしてAdoの歌声に、「企画物」には程遠い、本質的なリアリティを感じることができるはずだ。

Ado自身のこんな発言を読んでいると、彼女がネット時代に生まれてきてくれてよかった、今が昭和のテレビ時代じゃなくってよかったと、つくづく思う。

――日常生活での変化もあまりないですか?
Ado:まったく変わらないです。私の歌がバンバン流れてる薬局とかで、「すいません、これください」って普通に生活用品買ってる感じなので(笑)
(Real Sound 2021年10月19日)

80年代後半にもしネットがあったら…

最後に手前味噌な話。ご多分にもれず私も、若気の至りで音楽家を目指した時期がある。時は80年代後半、自作の曲をカセットテープに吹き込んで、レコード会社十数社に送り付けるも、なしのつぶてだった。

それでも悶々としていた。たった十数個の入口が閉ざされただけではないか。自分の音楽を待っている別の入口が、他にあるかもしれない――。

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あの頃、ネットがあったら、DTM(デスクトップ・ミュージック)ソフトがあったら、YouTubeやSNSがあったら、どうなっていただろう。

おそらく、聴き手からの反応の悪さを目の当たりにして、音楽家への夢を、ウジウジとせず、スパッとあきらめ、もっとすっきりした気分で20代を過ごすことができたはずだ。

Adoが堂々かつ朗々と『世界のつづき』を歌う世界のつづきには、すっきりした顔の若者が山ほどいる。素敵なことだと思う。いい時代になったと思う。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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