Adoが音楽チャートを一気に占拠できた納得理由 「覆面シンガー」の向こう側にあるリアリティ

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ここからは、そんな私の視点から、まだ彼女を色眼鏡で見ているかもしれないミドルシニア世代に対して、「覆面シンガー」の背景にあるマクロ環境変化と、それに対する私見を述べてみたい。

一言で言えば「署名性メディア」から「匿名性メディア」へ。言い換えると「リアル(真実)メディア」から「リアリティ(真実そのものじゃないけど真実っぽい)メディア」へ。

これ、何のことはない、テレビからネットへの重心変化を、それっぽく表現しただけのことなのだが、この変化は、すべてのエンターテインメント市場の中で、特に音楽市場に対して、大きな影響を与えたと考えている。

野球世代にとって、ヒット曲はテレビの歌番組から生まれていた。『ザ・ベストテン』『ザ・トップテン』『夜のヒットスタジオ』……。生放送の歌番組の中で、どんな名前、どんな顔、どんな体型の歌手が、どんな声で歌っているかという「リアル」を、一瞬にして全国に拡散する装置としてのテレビの時代。

名前も外見も明かさずにネットで拡散される

対して、どんな名前、どんな顔、どんな体型なのか、まったくわからない歌手が、収録編集済の「歌ってみた」動画をネットに上げて、その「リアリティ」がSNSで段階的に拡散されていくネットの時代へ。

まずは、この重心変化を認めた上で、問題はこの、署名から匿名、リアルからリアリティへの変化をどう捉えるかである(実は、消失された「リアル」価値の復権として、フェスの隆盛があると考えるのだが、それもひとまず措く)。

――よく考えたら、今のほうが健全なんじゃないか?

と、私は思うのだ。プロダクションやレコード会社、メディアなどに幸運にも選ばれた、歌だけでなく外見やダンスにも長じた総合的才能だけしか、音楽市場に立ち入れなかったテレビ時代に対して、名前も外見も明かさない一点突破の才能が、気軽に参加でき、聴き手の「いいね!」などによる直接民主制によって選抜されていくネット時代のほうが、少なくとも「参入障壁」の視点については、めっちゃ健全だろうと。

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