ジャクソンホール会議後の日米欧金融政策の行方 白井さゆり慶大教授(元日銀審議委員)に聞く

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――ジャクソンホール会議の前までは来年前半にもFRBは利下げに転じるという見方がありました。

それはありえないだろう。現在、インフレに見合う高い政策金利を課しているのはラテンアメリカぐらいで、欧米やアジアなどでは政策金利はまだかなり緩和的で、インフレを抑制するような状態にはない。アメリカも2%程度のインフレに落ち着くのは2024年になる可能性があり、来年いっぱいは高い政策金利を維持する必要があるだろう。

――潜在成長率や中立金利(景気を刺激も抑制もしない中立的な政策金利、2.5%程度)を大幅に上回る水準への利上げによって景気後退に陥る懸念も高まっています。

今回、パウエル議長は「インフレ抑制によってトレンド(潜在)成長率を下回る時期がしばらく続くだろう」と述べている。アメリカの潜在成長率は年1.8%程度だが、今後それをかなり下回ってくるだろう。来年にかけ景気後退に陥る可能性も否定できない。

白井さゆり(しらい・さゆり)/1963年生まれ。1989年慶應義塾大学大学院修了。1993年コロンビア大学大学院博士課程修了(経済学博士)。国際通貨基金(IMF)エコノミストなどを経て、2006年に慶應義塾大学教授。2011年4月から2016年3月まで日本銀行政策委員会の審議委員。2016年9月から現職(写真:本人提供)

アメリカの実質GDP(国内総生産)成長率は今年第1四半期(1~3月期)、第2四半期と連続で小幅なマイナス成長となったが、個人消費はプラスで堅調さを保っている。

だが、今後は金融引き締めで消費需要も押し下げていくことになるため、第4四半期には消費も含めてマイナス成長となる可能性がある。今年通年でもゼロ成長に近いかもしれない。雇用についてもパウエル議長は「労働市場は強すぎる」と述べており、インフレを抑制するには現在の強い求人件数が大幅に減って自然失業率の4%を超える水準までの悪化(7月の失業率は3.5%)は仕方ないだろう。

インフレを「一時的」と見誤ったFRB

――そもそもFRBが急激な利上げを余儀なくされた原因として、2年前のジャクソンホール会議で打ち出した「平均インフレ目標」があると考えられます。インフレ率が2%を超えても当分は金融緩和を続けるという高圧経済政策に縛られた結果、インフレに対し後手に回ったという見方です。

それはその通りだろう。FRBはインフレの持続性についても、2021年秋までは「一時的」として見誤った。その結果、QE(量的緩和政策)を長く続けすぎてしまい、政策金利の引き上げも遅れてしまった。

もちろん、インフレ加速は需要要因だけではなく、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱など(FRBが制御できない)供給要因もある。次々にコロナウイルスの変異株が出てくるなど想定を超える状況もあり、FRBが失敗したと責めるのは酷な要素も否定できない。

とはいえ、今や平均インフレ目標とはまったく違う高インフレの世界に突入している。FRBが打ち出してきたフォワードガイダンス(金融政策の指針表明)はことごとく修正され、予想以上のインフレとなっており、フォワードガイダンスの信頼性は著しく低下した。むしろパウエル議長のアップツーデートな発言のほうに市場の関心が集まっている。

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