ジャクソンホール会議後の日米欧金融政策の行方 白井さゆり慶大教授(元日銀審議委員)に聞く
――日本でも消費者物価指数の前年比上昇率が2%を超え、欧米ほどではないにせよジワジワ上昇しており、日銀の対応も注目されます。
今後は世界的な天然ガス価格の上昇が一段と国内物価に影響してくるのではないか。
日銀はイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)で0%程度に誘導している長期金利の許容変動幅を2018年7月に拡大したのに続き、2021年3月にも変動幅を上下0.25%まで広げた。アメリカが金利を上げている現在は、変動幅をさらに拡大しやすい局面といえる。
日銀の黒田(東彦)総裁は変動幅拡大の可能性を否定している。長期金利の上限を少し上げたぐらいでは円安阻止の効果が薄いのも事実だ。
日銀は政策の柔軟性を高められるか
ただ、円安対策としてではなく、日銀がこれまでやってきたように、政策の柔軟性を高めるという意味で変動幅を拡大することは可能だろう。今よりもっとインフレ率が低い時期でも変動幅を拡大してきた。なぜ今しないのか、ということだ。
おそらく投機筋の攻撃を恐れているのだろう。6月には日銀の政策修正を見込んだ海外ヘッジファンドなどの投機的な仕掛け(国債先物売り)を受け、日銀は大量の国債買いオペで対抗した(6月の国債買い入れ額は約16.2兆円と月間最高)。変動幅を拡大すれば次の上限引き上げを試す投機が続く可能性があり、日銀はもっと国債を買わざるをえなくなる。
とはいえ、変動幅の拡大は市場の取引促進につながる。柔軟性の観点から、時が許せば検討することは可能になるだろう。
――日銀のマイナス金利政策についてはどうでしょうか。
スイスでもインフレ率が珍しく3%台に乗せ、中央銀行は6月に0.5%の政策金利引き上げを行っているが、それでもまだマイナス0.25%だ。日銀だけが異常というわけではない。国内のインフレ率がまだ2%台で、需要も弱い現状では、無理して利上げしなくてもいい状況にはある。
将来的にマイナス金利政策はYCCの枠組みの中で微調整されていく可能性はあるが、日本経済の実力から言って、日銀の低金利政策自体は維持されていくだろう。金利がそんなに高くなる経済ではないということだ。
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