日本人が失った富「デフレ30年」の何とも重い犠牲 GDP世界3位でも"1人当たり"28位に後退の意味

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こうした影響は、大学や企業といった研究機関の質にも大きく関係している。例えば、「トップ10%補正論文数」というデータがある。科学論文の数では現在、日本は世界で第4位なのだが、注目度の高い論文の指標となる「TOP10%」や「TOP1%」に入る論文の数が年々減少しており、日本の研究機関の質の低下が目立っているのだ。

研究論文数……文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の「科学技術指標 2021年版」によると、2007年-2009年と2017年-2019年の論文数を国別で比較してみると次のようになっている。カッコ内は、注目度の高い論文(TOP10補正論文数)のシェアを示したものだ。

<2007年-2009年、2017年-2019年/TOP10論文数シェア数の変遷と順位>
①アメリカ……24万2115→28万5717/34.9%(1)→22.9%(2)
②中国……9万5939→35万3174/7.6%(2)→24.8%(1)
③日本……6万5612→6万5742/4.3%(5)→2.3%(10)
④ドイツ……5万6758→6万8091/6.0%(4)→4.5%(4)
⑤イギリス……5万3854→6万3575/7.0%(3)→5.4%(3)

日本だけが著しく落ち込んでいることがわかる。大学や企業の研究施設に十分な資金が回っていない証拠ともいえる。

30年で失ったものは富と成長力、責任は政府と企業?

要するに、日本はこの30年間のデフレ経済で、貧困と格差を生み出し、力強い経済成長力を失い、莫大な財政赤字を抱えてしまった状況と言っていい。どうすればいいのかは、いまのところわからない、というのが結論だろう。少なくとも政府も、日銀も正確な答えを見いだせていない。

いずれにしても、現在のデフレ経済の原因が政府と企業にあることは間違いなさそうだ。終身雇用制と新卒一括採用という雇用システムにこだわっている以上、日本はほかの先進国に負け続けることになるだろうし、政府は今や財政赤字の処理だけで手いっぱいという状況に見える。われわれが失った30年の歳月と莫大な富は、国民が明確な意思を示すまでは今後も失い続けるはずだ。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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