イタリア人が並んで食べる「ジェラート」の真実 おいしいジェラテリアでは「中が見えない」

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もう20年近く前、トリノで、2人の青年が小さなジェラテリアをオープンした。派手派手しい色と味のジェラートが主流だった当時、昔ながらのレシピ、昔ながらの材料だけを厳選して、見かけは地味だけれどおいしいジェラートをていねいに手作りして提供した。あるイタリア料理界の重鎮が「これはおいしい! 素晴らしい!」と絶賛したから、あっという間に爆発的な人気になった。

ローマで人気のジェラテリアに並ぶ人々(筆者撮影)

その頃から、材料のクオリティを重視するジェラートの流れが生まれた。今では人気のジェラテリア、おいしいと評価を受けるジェラテリアでは、ほぼ100%と言っていいほど、メニューボードに材料についての詳しい説明が表示されている。シチリア産有機農業レモン、ピエモンテ州ランゲのヘーゼルナッツ、アルプスの牧草だけを食べる牛のミルク、エクアドル産カカオ90%のチョコレート、 アオスタの山のハチミツ、シチリア・ブロンテ産のピスタチオ……。どこで誰がどんなふうに生産したか、どんな味と香りがするのか、読んでいるだけでおいしそうで、全部食べたくなってくる。

「ジェラートが見えない」のが特徴

そんな厳選された材料を使った、ハイクオリティでおいしいジェラテリアでは、「ジェラートが見えない」のが特徴だ。ジェラテリアではどこでも、ジェラートはフレーバーごとにステンレスの冷蔵ケースに入って並んでいる。でもクオリティを大事にするジェラテリアでは、必ずと言っていいほど、ステンレス製のフタがしてある。だからジェラートは見えない。なぜフタをしているんだろう? 見えないのは味の想像が難しくて困るよね、と思うのだが、フタにはちゃんとした理由があるのだ。

フタなしケースに入れられたジェラートは、表面がつねに空気に触れている。ケースの底面は冷蔵されているのに、空気に触れている部分は、客がドアを開け閉めして出入りするたびに起こる温度変化につねにさらされる。その結果、溶けたり凍ったりを繰り返すから、ジェラートの中に氷の結晶が生まれる。

「氷の結晶がないこと」はおいしいジェラートの必須条件と言われるから、フタをしていない店のジェラートには温度変化に強くなる添加剤が加えられているかもしれない。もしくは氷の結晶ができてしまったジェラートは、数時間おきに捨てているかもしれない。捨てたら損が出るから値段を上げたいところだが、あまり高くするとお客さんが寄り付かなくなる、ということは損をカバーするために、材料のクオリティを下げているかもしれない。そんなさまざまな事情が、たったフタ一つの下で起きているのだとしたらどうだろう?

見た目が華やかで色とりどりのジェラートはおいしそうでつい買いたくなるけれど、見えない=おいしさの目安ということを、頭の片隅に覚えておくと、いつかイタリア旅行でジェラートを食べるときの役に立つかもしれない。

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